【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 そして、ブレンさまと一緒にまだ校内にいるであろうマーセルを連れてもらうことにした。十分もしないうちにクロエたちがマーセルを連れてきて、その素早さに目を丸くしてしまったわ……

 マーセルは「えっと……?」と不安そうに瞳を揺らしている。

 ……うーん、わたくしの顔でそんな表情をされると、やっぱりいろいろ複雑だわ……

「これ、貴女(あなた)宛ての手紙なの。わたくしが読むわけにはいかないし……」

 わたくしが眉を下げて手紙を渡すと、マーセルは母親からの手紙に気付いてぎゅっと大事そうに手紙を抱きしめた。

「……今、読んでも良いですか?」
「もちろんよ」

 ぱっと表情を明るくして、マーセルは封筒を丁寧に()がして手紙を取り出し、視線を落とす。

 読んでいる途中で、ポロポロと涙を流していく。

 そっとマーセルにハンカチを渡し、彼女はそれを受け取って「ありがとうございます」とお礼を口にしてから涙を()いた。

 それでも次から次へと溢れ出す涙。嗚咽(おえつ)をもらさないように、肩を震わせている。

「……おかあさま……」

 涙声で、彼女はそうつぶやいた。

「……ありがとうございました、カミラさま。ハンカチは洗ってお返しします。そして、できたら……カミラさまにもこの手紙を読んでいただきたいです」
「え?」
「だって、本来なら……カミラさまのお母さまですもの……」

 入れ替わってしまったわたくしとマーセル。わたくしたちが生まれたばかりの頃の話だから、どちらが悪いとかはないでしょう。

 ただ、そのことにマーセルは引け目を感じているみたい。自分が愛されて育ったことを、知っているから。
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