【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 違うことを聞かれると思っていたのか、彼は目を丸くしてこちらを見た。

「おそらく、そのときマーセルに魔法をかけたのだと思います」
「なんのために……?」
「わかりませんわ、陛下のお考えは。――ただ、わたくしとマーセルが入れ替わったのは、陛下が関わっているのでは、と考えております」
「そういえば、マーセル嬢。魔法は使えるようになりましたか? 試してみてもらっても?」

 ブレンさまがマーセルへ(たず)ねると、彼女はハッとしたように顔を上げて、「試してみます」と一言つぶやいてから目を閉じて魔法を使う。

 両手の手のひらを上にし、ぽわりと優しい光が両手を包み――ポンっと、花が出てきた。

 花姫の条件として、魔法で花を出せる女学生、というのがある。

 彼女はぴったり、それに当てはまっているわね。

「――魔法……」

 うるっとマーセルの瞳に涙がにじんだ。……使えるようになったことが、嬉しいのね。

「マーセル、魔法が使えるようになったのなら、生活魔法も使えるわね?」
「はい、そうだと思います」

 ハンカチを取り出して涙を拭き取り、ぱぁっと明るい表情を浮かべる彼女に小さくうなずく。

「――ノランさま。わたくしの話を、聞いてくださいますか?」

 すっと立ち上がり、彼の前まで移動する。

 胸元に手を置いて、じっと彼を見つめると、カースティン男爵は真摯(しんし)なまなざしをわたくしに向けた。
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