【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
「ここは……?」
「お母さまの部屋です」

 マーセルがぴたりと足を止めた。目的地についたみたい。

 そして、オリヴィエさまの部屋、なのね……。寝込んだ、と言っていたから、きっとカースティン男爵が付き添っているのだろう。

 仲睦まじい夫婦、のように見えたのだけど……いえ、今、考えることではないわね。

「――お父さま。マーセルです」

 トントントン、とマーセルが軽くノックをすると、ガタンとした音とバタバタとした足音。ガチャっと扉が開き、憔悴(しょうすい)しきったようなカースティン男爵が出てきた。

 そして、わたくしたちを見ると一瞬、表情を強張(こわば)らせる。

「ノラン・カースティン男爵。お話がございます」
「……わかりました。こちらへどうぞ」

 歩き出すカースティン男爵。その歩き方は、フラフラとしていて……最初にお会いしたときとはまるで違う。

 マーセルが慌てて彼に近付き、その身体を支えるように手を添えて歩く。後ろ姿だけ見れば、とても仲睦まじい親子だ。

 彼女に支えてもらいながら、カースティン男爵は目的地まで歩いた。案内されたのは、彼の執務室のようだ。「適当に座ってください」と声をかけられ、わたくしたちは顔を見合わせてそれぞれ好きなところに座る。

「それで、話とは……?」
「ノラン・カースティン男爵。マーセルが花姫に選ばれていたことを、ご存知ですか?」
「え? ええ、はい」
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