【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
レグルスさまの攻撃をマティス殿下はずっと避けていた。避けながら、攻撃の機会をうかがっているようで、彼の目の奥に炎が見えた。そういえば、こんなにも戦いが長引くのは初めてなのでは? マティス殿下はいつも数分で決着をつけていたと耳にしたことがあるもの。
彼よりも騎士学科の人たちの実力が下なのか、それとも――騎士学科の人たちが、マティス殿下にわざと負けていたか……
「……あ」
ザシュ、となにかを斬る音が聞こえた。
レグルスさまの頬から、大量の血が流れている。思わず彼のもとに行こうとしたわたくしの腕を、ブレンさまが掴んで止める。どうして、と声にならない声で問うと、彼はただ首を横に振るだけ。
「……人を斬ったのは初めてか?」
「ぁ、ぁ、あ……」
「ほら、大丈夫ですよ、カミラさま。レグルスさまはわざと斬られたのですから」
レグルスさまの問いに、マティス殿下はなにも答えられないようだった。
「わざと?」
「マティス殿下ね、いつも数分で勝っちゃうんですよ。だから、人を傷つけたことがないんです。あ、物理的にね。精神的にはカミラさまが被害者でしょうけど」
淡々とした口調のブレンさま。マーセルもその言葉を聞いていたのか、ぐっと下唇を噛む。
「マーセル、唇が切れるわよ」
とんとん、と自分の唇を人差し指で叩くと、彼女はハッとしたようにわたくしを見て、唇を噛むのをやめた。
「自分が持っているものが武器だと、実感しただろう?」
「……っ」
「王族は国民を守るために存在している。だが、お前は一人の女性を守ろうとしなかった。なぜだ?」
レグルスさまの硬い声が、わたくしの耳に届く。彼のいう『一人の女性』とは、おそらくわたくしを指している。
「――あいつは強いから、平気だろう」
その言葉に、すべてが詰まっていた。
彼よりも騎士学科の人たちの実力が下なのか、それとも――騎士学科の人たちが、マティス殿下にわざと負けていたか……
「……あ」
ザシュ、となにかを斬る音が聞こえた。
レグルスさまの頬から、大量の血が流れている。思わず彼のもとに行こうとしたわたくしの腕を、ブレンさまが掴んで止める。どうして、と声にならない声で問うと、彼はただ首を横に振るだけ。
「……人を斬ったのは初めてか?」
「ぁ、ぁ、あ……」
「ほら、大丈夫ですよ、カミラさま。レグルスさまはわざと斬られたのですから」
レグルスさまの問いに、マティス殿下はなにも答えられないようだった。
「わざと?」
「マティス殿下ね、いつも数分で勝っちゃうんですよ。だから、人を傷つけたことがないんです。あ、物理的にね。精神的にはカミラさまが被害者でしょうけど」
淡々とした口調のブレンさま。マーセルもその言葉を聞いていたのか、ぐっと下唇を噛む。
「マーセル、唇が切れるわよ」
とんとん、と自分の唇を人差し指で叩くと、彼女はハッとしたようにわたくしを見て、唇を噛むのをやめた。
「自分が持っているものが武器だと、実感しただろう?」
「……っ」
「王族は国民を守るために存在している。だが、お前は一人の女性を守ろうとしなかった。なぜだ?」
レグルスさまの硬い声が、わたくしの耳に届く。彼のいう『一人の女性』とは、おそらくわたくしを指している。
「――あいつは強いから、平気だろう」
その言葉に、すべてが詰まっていた。