【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
「小指を絡ませるんだ」
「小指を?」

 小指を絡ませて「これが指きり。約束するときに使うんだよ」と教えてくれた。……約束を交わすときに、こういうことをしたことがないから、不思議な気持ちだわ。

 いつも、レグルスさまはわたくしに新しい感情を教えてくれる。

 小指が離れて、思わずじっと自分の小指を見つめていると、「溶けるよ」と声をかけられてハッとしてレモンシャーベットを口に運ぶ。

 ドキドキと鼓動が早鐘を奏でるのを感じながら、わたくしはゆっくりと息を吐いた。

 溶ける前にレモンシャーベットを食べ終え、カフェを出てレグルスさまと街を歩く。

 人々はとても楽しそうに仕事をしたり、遊んだりと生き生きしているように見えて、まぶしい。

「――とても、素晴らしい街なのですね」
「どうしてそう思うんだい?」
「すれ違う人たちが、生き生きとしていますもの」

 馬車で旅をして立ち寄った町々も、それなりに栄えていたし、暮らしに不満はないように見えた。でも、この街は違う。

 生きていることに誇りを持っているように思えた。目の輝きが違うから。

「平民も貴族も、暮らしやすいのが一番ですわね」
「確かにね。でも、その基盤を築くのは俺ら王族や貴族だ」

 ぴたりと足を止めたレグルスさまに、彼を見上げる。

 その瞳は真剣そのもので……レグルスさまは、リンブルグを背負う覚悟ができているのだとひしひしと感じ取れた。
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