〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
「深井さんは美容師免許あるのにどうしてカメラマンになったんですか?」
『美容専門入ったのも親への反抗だったらしい。成績は良かったけど、向き不向きはあるよね。最初に勤めたサロンを辞めてからはずっとカメラマンしてる』
「カメラマンが向いていたのかもしれませんね。深井さんの写真には見る人を惹き付ける吸引力のようなものがある気がします」
『深井は職人よりは芸術家肌なんだよ。だから気難しい部分もあってオススメできるけどオススメできない』
「ええ? どっちですかぁ?」

 芸術家よりも職人が好きだと、口にできない歯がゆい想いを理世は封じ込めた。

2年前、仕事のスランプと恋に傷付いて荒んだ理世の心を優しく癒してくれたのが藍川だった。
この数年で理世が自分から唯一好きになった男が藍川店長だ。

 思わせ振りなハグと酒の勢いで触れ合わせた唇、欲情に呑まれた身体の繋がり。

幾度も恋人同然の行為をしているくせに藍川も理世も決定的な一言を言わないまま、店長と従業員、友達以上の恋人未満、ただのセックスフレンド……名前の付けられない曖昧な関係を1年以上もだらだらと続けていた。

 そうしてあろうことか、藍川は理世に好意を持つ友人の恋を後押しし始めた。深井も藍川と理世の関係をどこまで知っているかわからない。
結局、どんな男も最後は自分勝手で残酷だ。

 外階段で愛佳と深井と藍川が楽しげに話している。
背後に聞こえるハサミとドライヤーの音、カラーリングの溶剤の独特な匂い、客の女の子達の恋とお洒落の話も藍川の屈託のない笑顔も、何もかも目に焼き付けておこう。

 もうすぐ彼女はここから消える。あと少しだけ世界一残酷な好きな男の側で、好きな仕事に打ち込んで。

その後はリセットするだけ。
上手くいかない、人生のすべてを。

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