〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
「……事情はわかりませんが、事態を理解はしました。その子は木崎さんに好意を寄せているけれど、木崎さんは気持ちに応えるつもりはないんですね?」
{話が早くて助かる。舞と言うんだが、俺の彼女に会いたいと言ってきた}

 二人で酒を飲めばキスをしようとしたり、初めての電話では名前を呼び捨てにしたり、女に慣れている男だとは思っていた。

園美が言うには美形の類いに属す愁にはいくらでも女が寄ってきそうだ。

「舞ちゃんって子に木崎さんを諦めさせるために私に恋人のフリをしろと?」
{そうだ}
「いくらなんでも高校生を騙すのは難しいんじゃ……? 今の十代は早熟で勘が鋭いですよ」
{だとしても俺が舞を恋愛対象として見ていないと伝わればいい}

 恋に夢を見る子どもに現実を突きつけたい愁の気持ちはわからなくもない。だがイマイチ合点がいかない。

「恋人のフリなら私じゃなくても、他にも女性の知人はいらっしゃるのでは?」
{他の女だと面倒な勘違いをするかもしれない。その点、あんたは色恋に興味はなさそうだ。妙な勘違いもしないだろ?}
「興味がなさそうと、はっきり言われるのも心外ですよ?」

 他にもいるであろう女の知人の存在を彼は否定しなかった。愁のスマートフォンの連絡先の欄にずらりと並ぶ女の名前の中に、自分も加わっているかと思うと内心は複雑だ。

{日取りはそっちに任せる。来月、あんたの予定がいい日に}

 美夜の返事も聞かずに早口に言い残して愁は勝手に通話を終わらせた。
まったく訳がわからない。事態の把握はできても、偽恋人に自分が指命された理由は納得がいかない。

「来月の休み申請はもう出してあるんですけど! 日取りは任せるって言われても私の予定を聞きもしなかったじゃない!」

心地よい眠気も完全に覚めてしまった。寄り添うちゃちゃ丸相手に愚痴をこぼす美夜の肩に、いつの間にか和室に入ってきた祖母の手が触れた。

「東京でイイ人見つかった?」
「そんなんじゃないよ。それにイイ人じゃなくて自分勝手な失礼男だよ」

 美夜の愚痴を祖母は穏やかに目を細めて聞いている。切り分けたバウムクーヘンを口に放り込む美夜の膨れっ面が、ちゃちゃ丸のビー玉に似た綺麗な瞳に映っていた。
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