〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
 二人はまたキスを交わす。愁に覆い被さる朋子の女の臭気は一段と濃くなった。

「私はあなたを憎んではいない。むしろ愛しているわ。好きよ、愁」

 唾液の糸を引いて離れた唇から漏れた愛の言葉は薄ら寒い。愁の腰のベルトが外れ、朋子の手でスラックスのジッパーが下ろされた。

『こうすることが俺の母への復讐ですか?』
「それだけじゃないわよ」

下着から飛び出した愁の一部を朋子は子どもの頭でも撫でる手つきで優しく上下に撫でている。

「これは舞への復讐。あなたに惚れている舞へのね」
『……舞は紫音《しおん》さんではありませんよ』
「ここであの女の名前を言わないで」

 朋子の顔が愁の下半身に沈む。朋子の手と舌が愁の分身を撫で回し、彼女の温かな口内に彼は呑み込まれた。

「最近は何人抱いたの?」
『そんなくだらないことを、いちいち数えていませんよ』
「あなたに女を教えたのは私なのに、憎らしいわねぇ」

 愁にとって朋子は初めて抱いた女だ。恋も愛も知らない十五歳の夏に、初めて女の身体を知った。

 朋子の愛撫によってそそり立った分身を下げて、愁が朋子を下敷きにする。
黒々とした茂みの奥に愁の指が差し込まれ、愁の指と唇で同時に刺激された蜜壺はたっぷりと蜜を溢れさせた。

 春雷の夜に「桜の木の下には死体が埋まっている」と生真面目な顔で語った女がいた。どうして今、その女の顔を思い出すのか愁には理由がわからない。

桜ではなくサルスベリの下に本当に死体が埋まっているとは、神田美夜は思いもしない。

 四つん這いの姿勢で突き出された朋子のヒップはさすがに若い女と比べれば尻の肉は垂れ、肌の張り艶も劣る。けれど雄を欲しがる雌の発情した蜜壺は充分に雄を満足させた。

肌と肌が擦れる音に男と女の吐息が交《ま》ざる。サルスベリの下に埋まる愁の母親に見せつけるように、朋子は何度も気持ち良さそうによがって腰を振った。

「ぁっ、あぁっんっ! ……愁……しゅうぅ……ぁっ……」

 呻きに似た喘ぎ声の狭間に呼ばれる自分の名前が忌々《いまいま》しい。

何も考えずに愁は絡み付く女体を掻き抱いた。本能のままに律動を刻み、欲望のままに精子の解放を促す。

 愁と伶は似ていた。
女に奪われた男の尊厳。女に狂わされた人生。

 庭に咲く夏の雪が風に揺れる。
男と女も揺れていた。ゆらゆら、ゆらゆら、揺れていた。
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