〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
「雨宮家もずいぶんと派手なイベント事に手を出すようになったものね。前の当主は厳格な方だったのに、今は芸能人でも気取っているような活動の仕方。これが今の時代の華道界かしら」
『京都に引っ込んで花を生けるだけでは金にならないのでしょう』

 雨宮家は京都に本家を置く華道の家柄。雨宮流には門下生も多く、華道界での知名度も高い。
東京には雨宮の分家がある。

「私はね、憎むとするなら夏木だけを憎んでいるのよ。あなたの母親が私にしたことは許せないけれど、あなたを憎んではいない。でもごめんなさい。舞だけは今もどうにも好きにはなれない」
『人の気持ちは自由です。どう思われても奥様の自由ですよ』

 朋子が舞を憎もうと嫌おうと、舞自身に罪はない。罪があるとすれば、舞に宿るもうひとりの女の面影と舞に流れている呪われた血だ。

舞の容貌は亡き母親に生き写しだった。母親似と言われる伶よりも……もっと。

「舞は何も知らずに気楽でいいわね」
『まだ子どもですから。子どものうちは知らないままでいられる方が幸せです』
「自分は子どものうちに大人の薄汚さを知ってしまったから、舞には同じ思いをさせたくない……そう思っているんでしょう? いつまで舞を守るつもり?」

 朋子のブラウスのボタンがひとつひとつ外れていく。彼女は自分からブラウスを脱ぎ、ロングスカートも脱ぎ捨てた。

子を産まなかった朋子の体型は、五十代にしては線の崩れが目立たない。剥がれたブラジャーの下に隠れていた豊満な胸は形がよく、見事な曲線美を描くウエストラインもまだまだ女の一線で張り合える。

 一糸纏わぬ姿を晒した朋子が愁の隣に腰を降ろす。彼女は愁の形の良い唇を淫靡《いんぴ》な手つきでなぞった。

「愛のない暗い瞳ね」
『愛を知らずに育ちましたからね』
「あら、変ね。私だけはあなたを愛してあげたじゃない? まだ愛が足りないの?」

 唇に柔らかな接触が起きる。愁の唇は朋子の唇の侵略を受け、吸い付いた彼女はなかなか彼を離さない。
舌と舌で行われる交尾はくちゅくちゅと粘性のある音を発していた。

 畳の上で男と女が折り重なった。愁の身体の上に細い腰を乗せた朋子は、愁の服に手をかける。
朋子にされるがまま愁は天井を見据えた。この家の天井をこうして何度、睨み付けたかわからない。
< 36 / 92 >

この作品をシェア

pagetop