〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
 装飾された水中を赤や金の尾びれをなびかせて泳ぐ金魚はインスタグラマーと同じだ。
アパレルブランドの新作ファッション、新作コスメ、流行りのスポット……常に最新のトレンドにアンテナを張り巡らせて、華やかに装飾した日常のワンシーンをSNSに披露する彼女達。

 スマートフォン越しの金魚は綺麗?
数多《あまた》といる愛佳と同世代のインフルエンサーと五千匹の金魚が重なる。
観賞目的に生まれた金魚と時を止められた花の共演は、何を映し出す?

アートのための生命。
アートのための日常。
アートのための演出。

 そこに投影される人間の光と闇をスマホはどこまで鮮明に写す?

「伶くんがお花好きなのはどうして?」
『死んだ母さんが花が好きな人だったんだ。庭に出て、一緒に土いじりしてた』
「お菓子も作ってくれたんだよね。素敵なお母さんだったんだね」

 次のエリアは夏の庭。京都の竹林をイメージした涼しげな展示室だ。
色とりどりのビー玉が底に沈まる水槽を金魚の群れが優美に泳ぐ。

「お母さんも明日の伶くんのお誕生日、天国からお祝いしてくれてるね」
『そうかな』
「そうだよ。会ってみたかったなぁ。伶くんが綺麗な顔してるんだから、お母さんも美人な人だよね」
『美人だったのかな。小さい頃の記憶だからもう曖昧だよ』

 暗がりに浮かぶ伶の横顔はとても美しい。伶はどこにいても映える人だ。

 インターネットの世界で華やかな日常を演出しなくとも、存在そのものが華やかな人種がいる。伶は間違いなくそちら側の人間だと愛佳は思っていた。
しかしどこにいても光を集める彼の影は、どこにいても暗く澱んでいる。

 三番目の展示室、秋の庭のテーマは狐の嫁入り。紅葉をイメージした紅の空間にはところどころに狐の面と提灯《ちょうちん》が飾られていた。

『愛佳ちゃん?』
「愛佳ちゃん久しぶり」

 秋の庭の水槽を観覧していた愛佳は思わぬ人物と遭遇する。行き付けのヘアサロンdearlyの美容師、藍川龍平とネイリストの柴本香乃だ。

「藍川さん達もプレオープンに呼ばれていたんですね」
「サロンのお客様がここのスタッフさんで、招待券いただいたの。気晴らしにと思って藍川さんも誘ったんだ」

dearlyの店舗と同じビルの三階に香乃が勤めるネイルサロンがあり、愛佳は2週間前に香乃にジェルネイルの施術をしてもらったばかり。

『さっきロビーで深井と会ったよ』
「深井さんも来ているんですか?」

 インスタグラマー仲間には何人か遭遇したが、サロンモデルの撮影を担当する深井貴明の姿は見つけられなかった。

『カメラマンの端くれだからね。でもやっぱり元気なかった。あいつ、理世ちゃんに気があったから』
「前の深井さんとのポトレ撮影の時に理世さんの話をよくしていました。深井さんは理世さんが好きだったのかなぁとは思っていたんです」
「理世も深井さんとのことは前向きに考えてみるって言ってたのよ。試しにお付き合いしてみればこんな事件を起こさなかったのかな……」

 香乃の顔は2週間前にネイルサロンで会った時よりも頬は痩《こ》け、全体的にやつれて見えた。いつもはハツラツとした藍川も憔悴している。
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