〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
 死体もなく解剖ができない現状では正確な死亡推定時刻も割り出せず、毒物の特定にも至っていない。

「なんで栞里のスマホからの投稿だったんだろう。皐月もインスタグラムをやっていたなら、あの投稿も皐月のインスタを使えばいいと思わない?」
『二人目の被害者のスマホにはロックがかかっていたんじゃないか? 栞里の家族の話だと、栞里はスマホにロックはかけてなかったって言ってたよな?』
「ああ……なるほど。皐月のスマホは暗証番号か指紋認証でロックをかけていたから、犯人は操作できなくて代わりに栞里のスマホとインスタを使ったわけね」

 皐月のスマートフォンの位置情報も特定できていない。犯人の手で電源が切られたのだ。

皐月の生存が最後に確認された場所は日本橋に今日開業する水槽展示美術館、アクアドリーム。
皐月のインスタグラムに掲載された昨日の投稿内容によれば、彼女は昨日行われたアクアドリームのプレオープンイベントに招待されていた。

 到着したアクアドリームの施設前には生憎の雨天にも関わらず、入場口の前には傘の列ができている。
テレビ局のカメラも見かけた。国内初の水槽展示美術館はかなりの注目度の高さらしい。

『すげぇ人の数だな』
「今日がオープンだからね。私達は裏口から入れるよう話がついてる」

 美夜と九条の応対に出たのはアクアドリームの広報担当者。
昨日のプレオープンには施設を新しいSNS映えスポットとして広めるため、インスタグラムやツイッターなどのSNSフォロワー数が一万人以上のインフルエンサーを対象にイベントに招待していた。

 小松原皐月も招待客だ。皐月のインスタにもアクアドリームのプレオープンの様子が投稿されている。

 まばゆい光を放つビー玉と赤い金魚が散らばる水槽の側で皐月は笑っていた。この笑顔の数時間後に皐月の時は永遠に止められ、二度と動かない。

第二の死体の側に造花の金魚草はなかった。けれど美夜には、皐月が纏っていた水を吸った真紅の長襦袢が金魚の尾びれのように見えていた。

 美術鑑賞による個人の見解や解釈は自由だ。ある作品を綺麗だと思うのも汚いと思うのも、死体を見て美を感じる衝動も、人の感情は縛れない。

だがアートに秘めた製作者の意図と想いは固定されている。
製作者《犯人》が作り出したアート《殺人》に込められた狂気。それを読み取らなければ事件の核は掴めない。

 皐月の最後のストーリーズ投稿の推定時間は昨日の14時。
ちょうどその時間から、プレオープンイベントでは展示の監修に携わったフラワーアーティストの雨宮蘭子のデモンストレーションが始まった。

皐月は動画を投稿している。彼女はデモンストレーションが行われた14時頃まではアクアドリームの館内にいた。問題はその後の行方だ。
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