〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
アクアドリームの館内を出てもまだ小雨が降り続いている。美夜はこれから皐月の目撃情報の聞き込みに向かうが、九条はしきりに腕時計を見ては時間を気にしていた。
「九条くん用事があるって言ってたよね。目的の場所まで送ろうか?」
『悪い。じゃあ日比谷公園で降ろして。その近くのカフェで待ち合わせしてるんだ』
「待ち合わせって……彼女できたの?」
『バーカ。あの子だよ。万引き未遂で知り合った雪枝ちゃん』
車が日本橋から日比谷方面に向かう。フロントガラスを打ち付ける雨の雫を見ていると、自分が硝子の部屋に閉じ込められた魚に思えてくる。
あの施設にいた金魚達も硝子の部屋とファインダーに小さな命が収まるように、窮屈そうに生きていた。
「まだあの子と連絡取ってたんだ」
『たまにな。学校の話聞いたり、俺のつまらない長話も嫌がらずに聞いてくれる。いい子だよ』
「二人で会うのは今日が初めて?」
『先月に一回会ってる。その時から感じていたんだけど多分、雪枝ちゃんは俺に話したいことがあるんだ。学校の友達のことか家族のことか……何か抱えてるんだよ』
なかなか言葉を返さない美夜の言いたいことは隣の相棒には言わなくても伝わっている。
『どうせ呆れてるだろ?』
「多少お人好しだとは思ってる」
『ほらみろ。呆れてるじゃん』
珍しい私服姿の九条は唇を尖らせてそっぽを向いた。スーツの彼を見慣れているせいか、Tシャツとジーンズ姿の九条は職務中よりも若返って見えた。
大学生に見えると言えば怒るだろうか。
「私が高校の時に九条くんのようなお人好しでお節介な友達やお兄さんがいたら良かったのにって、雪枝ちゃんが羨ましくなった」
これは本心だ。もしも10年前に九条と出会えていれば、彼のお人好しとお節介が美夜の凍った心を溶かしてくれたかもしれない。
おかしなものだ。九条と今ここで時間と空間の共有ができるのも、10年前に犯した罪を赦《ゆる》されるために刑事になったからだと言うのに。
誰も知らない美夜のあの罪がなければ、暑苦しくてお人好しでお節介なこの男とも一生出会わなかった。
『神田も本当に助けが必要な時はいつでも来いよ。肩か胸くらいなら貸してやる』
「そうなった時はちゃんと頼るよ」
『……約束な』
優しさを含んだ声で念押しされても必要な時に九条を頼れる自信はない。
美夜は頼り方を知らない。
ひとりで生きていけるように、ずっとそうやって……ひとりになってきたんだから。
「九条くん用事があるって言ってたよね。目的の場所まで送ろうか?」
『悪い。じゃあ日比谷公園で降ろして。その近くのカフェで待ち合わせしてるんだ』
「待ち合わせって……彼女できたの?」
『バーカ。あの子だよ。万引き未遂で知り合った雪枝ちゃん』
車が日本橋から日比谷方面に向かう。フロントガラスを打ち付ける雨の雫を見ていると、自分が硝子の部屋に閉じ込められた魚に思えてくる。
あの施設にいた金魚達も硝子の部屋とファインダーに小さな命が収まるように、窮屈そうに生きていた。
「まだあの子と連絡取ってたんだ」
『たまにな。学校の話聞いたり、俺のつまらない長話も嫌がらずに聞いてくれる。いい子だよ』
「二人で会うのは今日が初めて?」
『先月に一回会ってる。その時から感じていたんだけど多分、雪枝ちゃんは俺に話したいことがあるんだ。学校の友達のことか家族のことか……何か抱えてるんだよ』
なかなか言葉を返さない美夜の言いたいことは隣の相棒には言わなくても伝わっている。
『どうせ呆れてるだろ?』
「多少お人好しだとは思ってる」
『ほらみろ。呆れてるじゃん』
珍しい私服姿の九条は唇を尖らせてそっぽを向いた。スーツの彼を見慣れているせいか、Tシャツとジーンズ姿の九条は職務中よりも若返って見えた。
大学生に見えると言えば怒るだろうか。
「私が高校の時に九条くんのようなお人好しでお節介な友達やお兄さんがいたら良かったのにって、雪枝ちゃんが羨ましくなった」
これは本心だ。もしも10年前に九条と出会えていれば、彼のお人好しとお節介が美夜の凍った心を溶かしてくれたかもしれない。
おかしなものだ。九条と今ここで時間と空間の共有ができるのも、10年前に犯した罪を赦《ゆる》されるために刑事になったからだと言うのに。
誰も知らない美夜のあの罪がなければ、暑苦しくてお人好しでお節介なこの男とも一生出会わなかった。
『神田も本当に助けが必要な時はいつでも来いよ。肩か胸くらいなら貸してやる』
「そうなった時はちゃんと頼るよ」
『……約束な』
優しさを含んだ声で念押しされても必要な時に九条を頼れる自信はない。
美夜は頼り方を知らない。
ひとりで生きていけるように、ずっとそうやって……ひとりになってきたんだから。