〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
愛佳の後ろには他の水槽を観覧する大勢の客がいた。
美夜は被写体の愛佳ではなく、九条が指し示す背景の人物にのみ焦点を定める。背景にいるのは水玉模様のワンピースの女。歳は若く、髪は茶髪のミディアムヘア。
「髪型も服も似てる。女の隣に誰かいるよね。解像度上げられる?」
『やってみる』
プレオープンイベント当日の皐月はピンクベージュの布地にチェリー柄のワンピースを着用していた。愛佳の背景にいる女も似たワンピースを着ている。
『……ダメだな。うちのシステムじゃ限界がある。画像処理は科捜研に頼んだ方が良さそうだ』
写真の背景に溶け込む男女は、ひとつのスマートフォンを二人で覗き込んでいた。女は笑っているが、キャップを被る男は解像度を上げても顔の特徴が掴めない。
「アクアドリーム側に防犯カメラ映像の提供を要請しよう。春の展示室のメイン水槽の位置が映ってるカメラ映像を重点的に調べれば、必ずこの二人が写ってる」
『そうだな。それと……このアカウントの持ち主の来栖愛佳って子も例のポトレってヤツやってるぞ』
「見せて」
美夜は横から九条のパソコン画面に食い入る。
波立つ青色の水面に目を伏せた女が浮かんでいる写真だ。真っ白なワンピースの裾をひらひらと揺らして仰向けに浮かぶ女の周りに、色とりどりの花が散る。
投稿の日付は6月24日。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
昨日はポトレ水撮🐠
photo by @Fukai_TAKA_photograph
撮影場所はカメラマンの深井さんの自宅にあるプライベートプール。
深井さんとのポトレ撮影ではいつも造花を使うんだけど水撮の時は生花を使います。
造花だと素材によっては水に沈んじゃうんだって。
使用したお花は私がサロンモデルを務めるヘアサロンdearlyの店長、藍川さんのご実家のお花屋さんから仕入れたそうで、帰りに未使用のお花を頂きました🌹
ワンピースの中には水着着てるよ💓
これでも水泳は得意🌊🐠
__________
同じ美容院の常連客、ポートレート、生花と造花、プール、インスタグラマー……
バラバラだったものがひとつに繋がる。その先に見えた真実は──。
*
鉛色に沈む東の空の反対側はかすかに日が差している。今頃太陽が顔を覗かせても、あと数時間後に空は月の領域だ。
冷蔵庫下段のボトルポケットには牛乳パックと二つの麦茶ポットが並んでいる。“彼”は魚のイラストが描かれたガラスポットの隣の、青い蓋のプラスチック製の麦茶ポットを持ち上げた。
フィンランドのカトラリーブランドのグラスは、ガラスの繊細なカットデザインが美しい。グラスに注いだアイスティーを持って彼はリビングに向かった。
『機材の準備してくるからこれを飲んで待っていてね。レモンとミルクは自由に使って』
「ありがとうございます。このグラスとっても素敵ですねっ!」
『フィンランドを訪れた時に買ってきた物だよ』
グラスの美しさに感嘆する獲物はそれの中身を疑いもしない。
時を止めてあげよう
若くて美しいまま
命の花を散らして
永遠に……眠れ。
Act2.END
→Act3.夕顔、狂う に続く
美夜は被写体の愛佳ではなく、九条が指し示す背景の人物にのみ焦点を定める。背景にいるのは水玉模様のワンピースの女。歳は若く、髪は茶髪のミディアムヘア。
「髪型も服も似てる。女の隣に誰かいるよね。解像度上げられる?」
『やってみる』
プレオープンイベント当日の皐月はピンクベージュの布地にチェリー柄のワンピースを着用していた。愛佳の背景にいる女も似たワンピースを着ている。
『……ダメだな。うちのシステムじゃ限界がある。画像処理は科捜研に頼んだ方が良さそうだ』
写真の背景に溶け込む男女は、ひとつのスマートフォンを二人で覗き込んでいた。女は笑っているが、キャップを被る男は解像度を上げても顔の特徴が掴めない。
「アクアドリーム側に防犯カメラ映像の提供を要請しよう。春の展示室のメイン水槽の位置が映ってるカメラ映像を重点的に調べれば、必ずこの二人が写ってる」
『そうだな。それと……このアカウントの持ち主の来栖愛佳って子も例のポトレってヤツやってるぞ』
「見せて」
美夜は横から九条のパソコン画面に食い入る。
波立つ青色の水面に目を伏せた女が浮かんでいる写真だ。真っ白なワンピースの裾をひらひらと揺らして仰向けに浮かぶ女の周りに、色とりどりの花が散る。
投稿の日付は6月24日。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
昨日はポトレ水撮🐠
photo by @Fukai_TAKA_photograph
撮影場所はカメラマンの深井さんの自宅にあるプライベートプール。
深井さんとのポトレ撮影ではいつも造花を使うんだけど水撮の時は生花を使います。
造花だと素材によっては水に沈んじゃうんだって。
使用したお花は私がサロンモデルを務めるヘアサロンdearlyの店長、藍川さんのご実家のお花屋さんから仕入れたそうで、帰りに未使用のお花を頂きました🌹
ワンピースの中には水着着てるよ💓
これでも水泳は得意🌊🐠
__________
同じ美容院の常連客、ポートレート、生花と造花、プール、インスタグラマー……
バラバラだったものがひとつに繋がる。その先に見えた真実は──。
*
鉛色に沈む東の空の反対側はかすかに日が差している。今頃太陽が顔を覗かせても、あと数時間後に空は月の領域だ。
冷蔵庫下段のボトルポケットには牛乳パックと二つの麦茶ポットが並んでいる。“彼”は魚のイラストが描かれたガラスポットの隣の、青い蓋のプラスチック製の麦茶ポットを持ち上げた。
フィンランドのカトラリーブランドのグラスは、ガラスの繊細なカットデザインが美しい。グラスに注いだアイスティーを持って彼はリビングに向かった。
『機材の準備してくるからこれを飲んで待っていてね。レモンとミルクは自由に使って』
「ありがとうございます。このグラスとっても素敵ですねっ!」
『フィンランドを訪れた時に買ってきた物だよ』
グラスの美しさに感嘆する獲物はそれの中身を疑いもしない。
時を止めてあげよう
若くて美しいまま
命の花を散らして
永遠に……眠れ。
Act2.END
→Act3.夕顔、狂う に続く