〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
 威勢の良い店主の声と人々の話し声、テレビから流れるバラエティー番組でわざとらしく大袈裟な驚きをする女性タレント、雑音入り交じるラーメン屋の四人席にラーメンと特盛餃子にネギマヨ唐揚げ、山盛りのチャーハンと天津飯《テンシンハン》が並んだ。

テーブルを囲むのは警視庁捜査一課をまとめる上野恭一郎、小山真紀、九条大河の三人。

『今日は俺の奢りだ。どんどん食え』
『まじっすかっ! ありがとうございます。いただきますっ!』
「九条くん、奢りだからって調子乗らないでよ」

 上野の奢りに目を輝かせる九条を真紀が嗜《たしな》めても、九条はすでに餃子にかぶり付いていた。

『うまっ! ここの餃子めちゃ旨ですね。こんな美味い餃子初めて食いました』
『代替わりしても味はしっかり受け継がれているな』

 上野と真紀が10年以上通い続けるこのラーメン店も、現在は前の店主の息子が切り盛りしている。

 上野と九条の注文の品はラーメンだが、真紀は天津飯を所望した。四十路を目前にして、最近は好物のとんこつラーメンが胃にもたれるようになった。
ラーメン、チャーハン、唐揚げに餃子にまたラーメンと、次から次へ胃袋に収める九条の若さ溢れる食べっぷりは見ていて清々しい。

「それだけ食欲あるなら少しは元気出た?」
『元気って?』
『小山がな、九条が最近何かに悩んでいると言っていたんだ。こうでもしないと、俺もなかなか部下とコミュニケーションが取れないしな。俺達に話せる悩みならいつでも聞くぞ』

口いっぱいに詰め込んだ麺を咀嚼して飲み込んだ九条は、自分を見つめる二つの視線に気まずく苦笑いを返した。

『何と言うか……。神田とどう接すればいいか悩むこともあって』
「私から見れば、コミュニケーションは取れているように見えたけど?」
『捜査に必要な意志の疎通は取れています。けど、あいつの誰にも言えない複雑な気持ちみたいな……重たいものを抱えている気がするんですよ。それがたまに言動に出ていて、そうなるとどう声をかければいいかわからないんです』

 九条のラーメンをすする一口も、それまでの豪快さが消えた遠慮がちな一口だった。

九条の弱音を聞き届けた上野と真紀は、テーブルの上で視線の糸を繋げる。美夜の過去に関する情報をバディの九条に共有するべきか否か、彼らは思案していた。
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