〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
エピローグ
 芹沢小夏の通夜は豊島区の斎場で執り行われた。喪服に身を包んだ来栖愛佳はハンカチで目元を押さえ、共に弔問に訪れた友人と焼香の列に並ぶ。

「あそこに立ってるの刑事さんだって」
『小夏ちゃんは男とネットで知り合っていたんだろ?』
『器量が良い子は普通にしていてもいくらでも男が寄ってくるのになぁ。ネットで探すくらいなら、うちの組合の若いの紹介してあげたのに……』
「そんな無神経なこと言うものではないよ」

 焼香の順番待ちの最中に親族席から漏れてくる噂話。
小夏はマッチングアプリを利用して複数の男と会っていた。今時の大学生にしてみれば、マッチングアプリの出会いはたとえば飲み会やサークル活動での出会いと何ら変わらず、いちいち驚いて噂をするほどでもない。

年齢が上の世代には、インターネットでの見知らぬ人間との出会いは不届きな行為だと思っている。
しかし、噂話に花を咲かせる中高年達が経験してきたお見合いのシステムと似たようなものではないかと、噂の前を素通りした愛佳は感じていた。

 焼香を終えて、最寄りの雑司が谷駅まで友人達と小夏の思い出話をしながら歩く。雑司が谷から新宿三丁目駅でメトロ丸ノ内線乗り換えた愛佳は西新宿駅で下車した。

なんだか心と頭がふわふわしていた。どこかで酒を飲みたい気分だが、喪服での入店は人目が気になり躊躇する。
仕方なく、コンビニで缶ビールとつまみの菓子類を購入してから帰路についた。
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