王子様との両片想いな闇落ち学園生活 〜封印される記憶〜

4.幸せな闇落ち結婚生活へ

 あれから何年も経った。
 
 私たちは卒業直前に両想いになった。
 一年後に結婚式も行われる予定で、それまで離れて暮らすのは耐えられないとのロイド様の意向で私は卒業直後に王宮入りした。

 初夜はたった今終わったところだ。

 ――卒業直前、私は今までの想いを全部ぶちまけた。

『もうすぐ卒業だから教えてあげるわ。昼間の私も夜の私もあなたが好きよ』
『は? え? は?』

 面食らう彼に、まるでその日の天気の話でもするように淡々と告げた。

『昼間の私は当然ながら記憶を消されていることには気づいていて、こっちの私のことをあなたが好きなんだと思い込んでいるわ。片想いしているのよ、あなたに』
『えっ、え……っ』
『今のこの私は、昼間の私に対する恋の相談をあなたにされて、ものすごく傷ついている』
『そ……っ』
『あなたのせいで別人格のようになっているのよ。心も体も捧げているのに、卒業したらあなたは私を消すつもりでしょう。ここにも来れなくなるし。消されるばかりの私の身になって考えてみたら』

 やっぱり最後は涙が滲んで自己嫌悪した。

 彼は、泣いて謝ってくれた。記憶も返すと。全て私の希望通りにすると。なんでもするって震えて泣きながら抱きしめてくれた。

 だから、私は彼にお願いしたんだ。

 昼間の私に全部話して謝って、あなたの考える最高のデートをしてあげてって。それから、もう少しマシな初夜を私にちょうだいと。それまで私の記憶は返さなくていいと。

『どんなデートがいい。どこに行きたくて何が好きで……』
『あなたが私のために一生懸命考えた場所がいいのよ。その結果が別に部屋に引きこもってしりとりをするとかでもいいのよ』
『……駄目だろう、それは……』
『償う気があるなら、考えて』
『分かったよ』

 なるほど、不器用なんだなと思った。
 どこかの誰かに聞いたような完璧デートマニュアルに沿ったようなデートだった。何も知らなければ完璧な王子様を装っているだけのような。

「記憶を返したよ……、ミリア」

 初夜とは思えない体の私に気遣いながら、彼はやさしく私を求めてくれた。

「君の希望に沿っていなかったら、ごめん」

 ベッドサイドには金の装飾がなされた宝箱のような小さなケースが置かれている。さっき彼が開けたものだ。あの部屋にもあった。

「私の記憶、もう戻さないかと思った」
「……どうして?」
「あっちの私の方が好きかなって」
「どっちも君だよ。僕の大好きなミリアだ」

 記憶を失った私は最後まで、彼がこちらの私を好きなんだろうなと考えていた。あのままでは上手くいかなかっただろう。

「やっぱり僕の考えたデートプランじゃ、君を楽しませてあげられなかったよね……」

 ほんとにまったくこの人は。

「すごく楽しかった。大切な思い出ができたわ」
「それならいいんだけど……」
「髪留めもありがと。嬉しかった」
「……記憶、返したはずだよね。なんだか前よりやさしいな」

 失礼ね。

 火照りの残る体で起き上がる。さっきまでの私は恥ずかしがっていたし恥じらいも捨てたわけではないけど、彼の目線がこっちに注がれるのは悪くない気分だ。
< 5 / 6 >

この作品をシェア

pagetop