〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
伶を乗せた送迎の車は虎ノ門の夏木邸に向かっている。後部座席に悠々と座る彼は、スマートフォンを手早く操作した。これで今回の依頼の最初の難所は越えたと言っていい。
今回与えられた伶の任務は、望月莉愛の自殺の原因を作った人物の排除。莉愛の集団強姦とリベンジポルノに関わった瀬田聖と増山昇、首謀者の小柴優奈は片付けた。
任務にはまだ本命にして最大の難所が待っている。今回に限っては、伶ひとりですべての対処は難しいだろう。
事前連絡もなく自宅を訪問した伶を夏木十蔵は歓迎した。
『おお、伶、どうした? こんな時間に珍しい』
『夜分にすみません。仕事を済ませてきたので』
『順調のようだな。楽しいか?』
『楽しいですよ。この街は誰かに復讐したいと思う人間で溢れていますね。アプリの利用率も上がっています』
伶は大理石のセンターテーブルに白い粉末の入る小袋を置いた。中身は言わずもがな覚醒剤。
横に添えられた淡いオレンジの小袋は〈禁断の果実〉の呼称を持つ、中東で製造された媚薬だ。
『薬の調達もありがとうございました』
『もう必要ないか?』
『はい。薬物依存とセックス依存の女を落とすのは簡単でしたね』
『お前は恐ろしい子だな。〈禁断の果実〉は好きに使えばいいぞ?』
『俺が持っていても宝の持ち腐れです。すべて会長にお返ししますよ』
小柴優奈の薬物依存は夜の六本木、西麻布界隈を出入りする者には周知の事実。薬をちらつかせれば簡単に股を開く女だと、その界隈では有名だ。
彼女が頻繁に出没する六本木のクラブで伶は優奈を誘った。
思いの外、たった一夜で優奈は伶の身体と彼だけが持つ〈禁断の果実〉に骨抜きになり、今日までケイの名を偽る伶と優奈の関係は続いた。
『会長。お聞きしたいことがあります』
『改まってなんだ?』
『愁さんが初めて女を家に連れてきたんです。名前は神田美夜。会長はご存じですか?』
夏木十蔵はゆったりとした所作で咥えた煙草に火をつけた。気難しげな彼の額に刻まれたシワが一段と深くなる。
『そうか。愁はまだあの女と……』
『やはり会長も女を知っているんですね』
『神田美夜は刑事だ。所属は警視庁捜査一課』
『……刑事? 愁さんもそのことを?』
『知っている。神田美夜とは関わるなと忠告したんだが、愁はどういうつもりだろうな。あいつが私の言うことを聞かないのは、今に始まった話でもないが』
夏に美夜を自宅に招いた際、彼女は職業を役所の公務員と述べた。当時から嘘臭いと疑ってはいたが、よもや刑事だとは。
そして愁は美夜が刑事だと知っている。
『神田美夜を見る愁さんの雰囲気がいつもと違ったんです。まさか本気であの女のことを……』
『だとすれば、私が女を殺せと命じても愁は従わないかもしれんな。今のところ神田美夜には害がない。だから私も放ってはおいてはいるが』
もしも夏木が美夜を疎ましく思い、美夜の排除を愁に命令しても、愁は美夜を殺さない。愁には殺せないと伶は直感した。
『愁さんが命令に従わなかった場合は俺が神田美夜を殺しますよ。……あの女は舞にとっても邪魔者ですからね』
エイジェントはジョーカーを継ぐ者として産み出された存在。
トランプのジョーカーは二枚ある。
黒のジョーカーと赤のジョーカー。
本当に強いのはさて、どちらのジョーカー?
今回与えられた伶の任務は、望月莉愛の自殺の原因を作った人物の排除。莉愛の集団強姦とリベンジポルノに関わった瀬田聖と増山昇、首謀者の小柴優奈は片付けた。
任務にはまだ本命にして最大の難所が待っている。今回に限っては、伶ひとりですべての対処は難しいだろう。
事前連絡もなく自宅を訪問した伶を夏木十蔵は歓迎した。
『おお、伶、どうした? こんな時間に珍しい』
『夜分にすみません。仕事を済ませてきたので』
『順調のようだな。楽しいか?』
『楽しいですよ。この街は誰かに復讐したいと思う人間で溢れていますね。アプリの利用率も上がっています』
伶は大理石のセンターテーブルに白い粉末の入る小袋を置いた。中身は言わずもがな覚醒剤。
横に添えられた淡いオレンジの小袋は〈禁断の果実〉の呼称を持つ、中東で製造された媚薬だ。
『薬の調達もありがとうございました』
『もう必要ないか?』
『はい。薬物依存とセックス依存の女を落とすのは簡単でしたね』
『お前は恐ろしい子だな。〈禁断の果実〉は好きに使えばいいぞ?』
『俺が持っていても宝の持ち腐れです。すべて会長にお返ししますよ』
小柴優奈の薬物依存は夜の六本木、西麻布界隈を出入りする者には周知の事実。薬をちらつかせれば簡単に股を開く女だと、その界隈では有名だ。
彼女が頻繁に出没する六本木のクラブで伶は優奈を誘った。
思いの外、たった一夜で優奈は伶の身体と彼だけが持つ〈禁断の果実〉に骨抜きになり、今日までケイの名を偽る伶と優奈の関係は続いた。
『会長。お聞きしたいことがあります』
『改まってなんだ?』
『愁さんが初めて女を家に連れてきたんです。名前は神田美夜。会長はご存じですか?』
夏木十蔵はゆったりとした所作で咥えた煙草に火をつけた。気難しげな彼の額に刻まれたシワが一段と深くなる。
『そうか。愁はまだあの女と……』
『やはり会長も女を知っているんですね』
『神田美夜は刑事だ。所属は警視庁捜査一課』
『……刑事? 愁さんもそのことを?』
『知っている。神田美夜とは関わるなと忠告したんだが、愁はどういうつもりだろうな。あいつが私の言うことを聞かないのは、今に始まった話でもないが』
夏に美夜を自宅に招いた際、彼女は職業を役所の公務員と述べた。当時から嘘臭いと疑ってはいたが、よもや刑事だとは。
そして愁は美夜が刑事だと知っている。
『神田美夜を見る愁さんの雰囲気がいつもと違ったんです。まさか本気であの女のことを……』
『だとすれば、私が女を殺せと命じても愁は従わないかもしれんな。今のところ神田美夜には害がない。だから私も放ってはおいてはいるが』
もしも夏木が美夜を疎ましく思い、美夜の排除を愁に命令しても、愁は美夜を殺さない。愁には殺せないと伶は直感した。
『愁さんが命令に従わなかった場合は俺が神田美夜を殺しますよ。……あの女は舞にとっても邪魔者ですからね』
エイジェントはジョーカーを継ぐ者として産み出された存在。
トランプのジョーカーは二枚ある。
黒のジョーカーと赤のジョーカー。
本当に強いのはさて、どちらのジョーカー?