〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 背景に六本木の高層ビルを従える夜の公園を長い影が横断する。彼は息を潜めて獲物の到着を待った。

園内の入り口付近に設置された赤と黄色と青の奇妙な形のモニュメントの前を、小鹿の脚に似た細い脚が駆けていく。獲物の到着を察した彼は、物陰から顔を覗かせた。

『優奈、こっち』
「ケイくんっ!」

 小柴優奈は特徴的な肉感のない脚を跳び跳ねさせ、一目散に彼の腕に飛び込んだ。地面に浮かぶ二つの影は密着してひとつとなる。

『誰にも見つからなかった?』
「大丈夫。テレビ局も裏口から出たし、変装も完璧」

優奈は目深に被ったキャスケットと丸いレンズの伊達眼鏡を装着している。眼鏡の奥に隠れた綺麗にカールした長い睫毛、瞼に艶めくアイシャドウのラメは、彼女が瞬《まばた》きをするたび夜の闇に輝いた。

 優奈にケイと呼ばれている彼は彼女を公衆トイレの個室に引き摺り込み、すぐさま唇を寄せた。唇を重ねるほど深くなるキスは、男と女の本能を解放させる。

『脱がせやすそうな服だね。わざと?』
「ふふっ。当たり前でしょう?」

 優奈が着ているのはデニム生地のシャツワンピース。シャツのボタンは胸元からウエストの部分までが外され、肩紐がずり落ちたブラジャーから飛び出した乳房は彼の手の動きに合わせて形を変えた。

 自分からショーツを脱いだ優奈は淫靡《いんび》な姿で彼を誘惑する。数時間前までテレビの中で笑顔を振り撒いていた人気アイドルが、今は公園の公衆トイレで男相手に股を濡らしている。

フルリールの小柴優奈は清楚担当で売っているが、彼女の実態は清楚とは対極。優奈は無類の男好きで性に奔放な女だった。

『後ろ向いて。もっと気持ちよくなるものあげる』

 散々、彼に身体を弄《まさぐ》られて快感に酔った優奈は、男の言うことを素直に聞く性奴隷に成り果てる。

彼女は疑いもなく彼に背を向け、剥き出しの尻を突き出した。そのまま静止した彼女は彼に片腕を掴まれても抵抗しない。

『ほら、優奈が大好きなオクスリだ』

 脚と同じく、極度に肉感の欠如した細い腕に注射針が突き刺さる。優奈は針の痛みにも快感を覚え、甘く喘いでいた。

薬物と男に夢中の優奈には清楚なアイドルの面影はどこにもない。

 夜間の公衆トイレに響くネチャネチャとした卑猥な音と女の喘ぎ声。尻を突き出して気持ち良く快楽に浸っていた優奈の声に突如、別の喘ぎが加わる。

優奈の異変を察知した彼は、彼女の膣から自分の分身を引き抜いた。

 可愛らしく作り込んだ甘い声から一変して、低い唸り声を上げてもがき苦しむ優奈は膝から崩れ落ちる。トイレの狭い床の上で折り曲げた身体は痙攣を繰り返し、こちらに向けて伸ばされた優奈の手を彼は躊躇なく蹴り飛ばした。

『大好きなセックスをしながら大好きなクスリで死ねるなんて本望だろ? 気持ち良く死ねてよかったね』

 優奈に注射したのは普段よりも高濃度に調整した覚醒剤。ものの数分で優奈の身体は動かなくなった。

注射器とコンドームがトイレの水流に呑まれて消える。それを眺める夏木伶の瞳はどこまでも暗く、殺人を終えてもなお、涼しげだ。
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