〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
伶はサンドイッチを持って愁の部屋を訪ねた。
『愁さん、入りますよ』
応えが返らない無言の扉を開け、愁の部屋に入室する。部屋はカーテンが締め切られていて薄暗い。黒で統一されたベッドに愁が寝ていた。
『具合どうです? サンドイッチ作ったので、ここに置いておきますよ』
『ああ。……夜から出掛ける。それまでは寝るから夕食はいらねぇよ』
『あっちの仕事の?』
『そうだ』
ラップに包まれたサンドイッチが載るトレーをデスクに置いても、伶はまだ退室しない。愁は伶の視線を鬱陶しそうに避けて寝返りをした。
『……話があるなら早く言え。昼飯届けに来ただけじゃないだろ?』
『会長に神田美夜の素性を聞きましたよ。俺達には区役所の職員だと嘘をついていましたけど、本当は警視庁捜査一課の刑事なんですね』
『お喋りなジジィだな』
ベッドから苛立ちの舌打ちが聞こえた。人型に盛り上がった山が崩れ、上半身を起こした愁が伶をねめつける。
『あの人とまだ会っているんですか?』
『プライベートは俺の自由だ。誰と会おうと指図される筋合いはない』
『でも相手が刑事となれば話は別です。……本気ですか?』
『だったら何?』
その返答は伶の意表を突いていた。探ろうとしても探らせてくれない愁の腹の内は、まったく読めない。
『会長の意向次第では神田美夜は俺が始末します』
『……伶』
ベッドを降りた素足の足音が伶の目の前で立ち止まる。愁と伶では伶の方がわずかに身長が低く、見上げる形となった愁の形相は夜叉そのもの。
『たかが二桁殺しただけで調子に乗るな。お前は人の行動をネットで監視して支配した気になっている。“殺してくれてありがとう”と言われる側になった自分に酔ってるだけだ』
近付く愁の静かな威圧感にたじろいだ。後退りして壁際に追い込まれた伶は、震える唇を必死で動かしても声が出せない。
『いいか。俺達は正義のヒーローじゃない。自分が悪人を裁いているなんて思い上がるなよ。夏木が何を言おうと、必要があればあの女は俺が殺す。お前は手出しするな』
初めて会った春雷の夜と同じ、暗い瞳の男がここにいる。長年の同居で忘れかけていた愁の正体を伶はまざまざと思い知った。
愁は伶の父親を殺した男。
夏木十蔵専属の殺し屋。あのジョーカーなのだ。
殺されるかもしれない……。10年前の春雷の夜でさえ感じなかった恐れの感情は、愁の部屋を出ても膨らみ続けた。
全身の震えがなかなか止まらなかった。
『愁さん、入りますよ』
応えが返らない無言の扉を開け、愁の部屋に入室する。部屋はカーテンが締め切られていて薄暗い。黒で統一されたベッドに愁が寝ていた。
『具合どうです? サンドイッチ作ったので、ここに置いておきますよ』
『ああ。……夜から出掛ける。それまでは寝るから夕食はいらねぇよ』
『あっちの仕事の?』
『そうだ』
ラップに包まれたサンドイッチが載るトレーをデスクに置いても、伶はまだ退室しない。愁は伶の視線を鬱陶しそうに避けて寝返りをした。
『……話があるなら早く言え。昼飯届けに来ただけじゃないだろ?』
『会長に神田美夜の素性を聞きましたよ。俺達には区役所の職員だと嘘をついていましたけど、本当は警視庁捜査一課の刑事なんですね』
『お喋りなジジィだな』
ベッドから苛立ちの舌打ちが聞こえた。人型に盛り上がった山が崩れ、上半身を起こした愁が伶をねめつける。
『あの人とまだ会っているんですか?』
『プライベートは俺の自由だ。誰と会おうと指図される筋合いはない』
『でも相手が刑事となれば話は別です。……本気ですか?』
『だったら何?』
その返答は伶の意表を突いていた。探ろうとしても探らせてくれない愁の腹の内は、まったく読めない。
『会長の意向次第では神田美夜は俺が始末します』
『……伶』
ベッドを降りた素足の足音が伶の目の前で立ち止まる。愁と伶では伶の方がわずかに身長が低く、見上げる形となった愁の形相は夜叉そのもの。
『たかが二桁殺しただけで調子に乗るな。お前は人の行動をネットで監視して支配した気になっている。“殺してくれてありがとう”と言われる側になった自分に酔ってるだけだ』
近付く愁の静かな威圧感にたじろいだ。後退りして壁際に追い込まれた伶は、震える唇を必死で動かしても声が出せない。
『いいか。俺達は正義のヒーローじゃない。自分が悪人を裁いているなんて思い上がるなよ。夏木が何を言おうと、必要があればあの女は俺が殺す。お前は手出しするな』
初めて会った春雷の夜と同じ、暗い瞳の男がここにいる。長年の同居で忘れかけていた愁の正体を伶はまざまざと思い知った。
愁は伶の父親を殺した男。
夏木十蔵専属の殺し屋。あのジョーカーなのだ。
殺されるかもしれない……。10年前の春雷の夜でさえ感じなかった恐れの感情は、愁の部屋を出ても膨らみ続けた。
全身の震えがなかなか止まらなかった。