〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 学生達の好奇な視線を逃れて二人は駐車場に急いだ。時折吹く冷たい風に九条は大きな身体をすくめる。

『一昨日の雨の後から急に寒くなったな』
「来週には11月だね。そろそろ冬物のコート出さないと」
『明日の誕生日、休み取ってるけど何か予定あり?』

問われた休日の予定に美夜の心臓が跳ねた。動揺の素振りを車の窓越しに誤魔化して、運転席側の扉を開ける九条から少し遅れて彼女は車内に乗り込んだ。

「なんで私の誕生日知ってるの? 教えたことないよね?」
『バディ組む前に互いの経歴や個人情報は書類で確認しただろ。そこで生年月日は見てる。1990年10月24日生まれ、血液型はAB型、身長163センチの体重が48キロ』
「体重まで覚えてなくていい」

 九条は記憶力が桁違いに良い。行き付けの定食屋のメニューは定番の品は価格まで全種類覚え、電話番号や暗証番号、桁数の多いパスワードの暗記も得意だ。

数字と暗記に強いのに数学と社会科は不得意分野と言うのだから、この相棒の能力はよくわからない。

 美夜は半年前に一度閲覧しただけの九条の情報を記憶の底から引きずり出した。

「九条くんは……91年の4月だっけ」
『仲良くなった頃には誕生日が過ぎてる悲しい4月3日生まれのB型です』
「なにその自己紹介」
『新学期が始まる頃には俺の誕生日は過ぎてるってこと。好きな女に誕生日教えても、今年の誕生日は過ぎてるからじゃあお祝いは来年ねーってオチ』

九条と似た文脈表現を少し前にどこかで聞いた。6月が誕生日の男も誕生日を教えてもらった頃には、梅雨はとうの昔に過ぎ去っていた。

「春生まれも大変ね」
『遅過ぎず早過ぎずの秋生まれくらいがちょうどいいって』

 九条との会話で愁を思い出すのも、なんだか居心地が悪い。


 ──“木崎さんは誕生日いつなんですか? 前に秋生まれではないと言っていましたよね”?──

 ──“6月13日”──

 ──“とっくに過ぎていますね”──

 ──“来年に期待してる”──


 秋生まれでもないのに秋の心の名を持つあの男は、来年の自分の誕生日に美夜の時間を勝手に予約している。
木崎愁はどこまでも勝手な男だった。
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