〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 愛の告白は莉愛からだった。彼は莉愛の将来と己の立場を考え、最初は彼女の想いを受け入れなかった。
もちろん彼も同じ気持ちでいた。莉愛を女性として愛しく感じていた。

けれど自分の存在が莉愛の足枷《あしかせ》になることを恐れ、いつか莉愛が自分から巣立つ時に、彼女を手離せなくなるかもしれないと怖くなった。

 マネージャーとタレント。その一線は越えてはならないと、彼は莉愛に言い聞かせた。
それでも莉愛は彼を愛し続けた。彼もまた莉愛を愛し続けた。

 彼が莉愛と心と身体を結んだのは、莉愛の十八歳の誕生日の夜。
あの日に初めて彼と莉愛はキスをして身体を重ね、同じベッドで朝まで眠った。堂々とデートはできなくても莉愛の部屋で落ち合い、二人は甘い時間を過ごした。

 しかし公私ともに順調とはいかなかった。2016年5月にフルリールの一員としてデビューしたものの、莉愛を悩ませたフルリールのメンバーとの確執。

親友の高倉咲希以外の三人は、莉愛への嫉妬にまみれて執拗に莉愛をいじめていた。

 さらには彼と莉愛がキスをしている現場を優奈に目撃され、最も知られたくなかった優奈に秘密を握られてしまった。

このままでは莉愛の才能も夢も潰されてしまう。莉愛のために事務所からの独立を考えていた矢先、あの集団強姦事件とリベンジポルノ事件が起きた。

 指先ひとつで人は殺せる。それを理解している人間がこの腐った街にどれだけいる?

 ねじ曲げられた真実、拡散するリベンジポルノ動画、世間からの罵詈雑言の誹謗中傷。

ある者は面白がり、ある者は罵り、ある者は後ろ指を指し、ある者は笑顔で陰口を囁く。
それによってひとつの儚い命が消えた。

 壊された幸せ、壊された二人の夢。
ひとりきりになった彼は莉愛の墓前の前で決意する。莉愛を自殺に追いやった者共に復讐を、制裁を。

 指先ひとつで人を殺せる。それをこの手で証明してやる。
そうして彼……国本和志は人の心を捨てた。

 莉愛のいなくなった世界は薄汚れた灰色の世界。こんな世界で生きていても意味がない。

 これからどこに行こう。 東京から遠く離れたこの街の夜景は、東京に比べればちっぽけで光も弱々しい。
でもこの街で国本の顔も素性も知る者は誰もいない。今はそれがとても心地よかった。

 明日のことは明日考えよう。
この命が尽きるその日まで、莉愛の歌声を心に響かせ彼は目を閉じる。

今宵、夢で会えたらいい。最愛の君と。


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