〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 杉浦が待つ車に戻るまでの道中に真紀は思考を整理する。

 小柴優奈が自宅に所有していた違法薬物の中には、〈禁断の果実〉と呼ばれる性的快楽増進の媚薬が紛れていた。媚薬は中東で製造され、2000年代初頭から日本に流通し始めた物だ。

2000年代当時、〈禁断の果実〉の密輸ルートを持っていたのは、貴嶋佑聖《きじま ゆうせい》が率いる犯罪組織カオスだけだった。

 カオス壊滅後は、貴嶋のビジネスパートナーであった夏木十蔵がカオスの密輸ルートを引き継いだと上野は睨んでいる。夏木十蔵が〈禁断の果実〉を入手できてもおかしくはない。

優奈に〈禁断の果実〉を与えたのは夏木十蔵に近しい人間、つまり優奈を殺害したのは夏木の手の者……夏木十蔵専属の殺し屋、ジョーカー?

(“ケイ”がジョーカー? でもジョーカーは、カオス時代から暗躍していたって上野一課長は言ってた。写真のケイはどう見ても二十代前半……)

 ジョーカーの年齢は若くても二十代後半以上でなければ、真紀が知るジョーカーの情報と辻褄が合わない。

 殺害方法の異なる伊吹大和と小柴優奈を除いて七十三件目となった連続絞殺事件と優奈の謎の恋人、ケイ。

 真紀の夫の矢野一輝が捜査協力を依頼されたゲームアプリ〈agent〉の開発は、夏木グループの子会社。

選ばれた被験者の刑事達が〈agent〉のゲームをプレイしている。ゲーム自体に問題があればそこから夏木十蔵に切り込んでいけるが、矢野と上野の読みでは相手もそう簡単に尻尾は出さないらしい。

 上野曰く、夏木十蔵は貴嶋よりも厄介な存在。どうあっても、いつかは夏木十蔵とその裏に潜むジョーカーと渡り合う。

(ケイが二十代前半ならカオスがいた時代は小学生……。夏木の養子は、今は確か大学生だった)

夏木十蔵の養子は、奇《く》しくも神田美夜の同級生を殺害した埼玉の不動産会社社長の息子と娘。ここの関係性も詳しく調べる必要がありそうだ。

 スマホの通話を特命捜査対策室の芳賀敬太に繋げる。仮眠から目覚めたばかりの寝ぼけた声の芳賀に、真紀は告げた。

「芳賀くん、ここ1ヶ月の間に関東近辺で中年男性の身元不明の遺体がなかったか大至急調べて」

 長年の刑事の勘が示す先に見えたのは根深い因縁。
この街に蠢く闇の色は、まだまだ濃く、どこまでも深い。
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