今夜はきっと眠れない
 部長はひとりでなにかぶつぶつ言っていた。

「藤沢さん、好きです。いや、ストレートすぎるか。藤沢さん、つきあってください。結局同じか」

 え、なに? 聞き間違い?
 私は柱に張り付いて固まった。
 今、部長が私のこと好きって言ったような?

「お客様、どうされました? ご気分悪くなられましたか?」
 通りがかった店員に聞かれて、私は顔をひきつらせた。

「だ、大丈夫です」
 いや、大丈夫じゃない。私がここにいたの、部長にばれちゃった。

 店員の目があるから、私は仕方なく個室に入る。
 部長の顔が見られない。

「あー、おかえり」
 部長の声がなんだか不自然に聞こえる。

「ただいま戻りました」
 それきり、ふたりの間に沈黙が降りる。
 さっきまで盛り上がっていたのが嘘みたいだ。
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