野いちご源氏物語 〇二 帚木(ははきぎ)
恋愛博士(れんあいはかせ)のお話はさらに続いたわ。
源氏(げんじ)(きみ)はあいかわらずのご様子だけれど、頭中将(とうのちゅうじょう)様は博士(はかせ)の話をすべて聞いてしまおうと熱心にうなずいておられた。

「相手の愛情が浅いか深いかは、分かりやすそうで分かりにくいものでございます。たとえば家具づくりの名人と言われる人にしても、絵や字の名人と言われる人にしても、本当の名人と、えせ名人、つまり名人のふりをしているだけの名人がおりますでしょう。

えせ名人の作品は、ぱっと見が華やかで目を引きます。派手で目新しくて、他の作品をかすませてしまうような勢いがございます。しかしですね、伝統的なものやありふれたものを題材に作品をつくらせると実力が出るのです。本当の名人の作品はやはり別格で、一本(すじ)の通った確かさがあります。
男女の愛情も同じでございましょう。分かりやすい派手な愛情は、かえって信頼できないものです。と申しますのも、昔それを実感(じっかん)した出来事がございまして」
とおっしゃって、博士は少し身を乗りだす格好(かっこう)をなさったわ。

源氏の君は目をお覚ましになった。
頭中将様はすっかり博士のお話に引きこまれて、頬杖(ほおづえ)をついて聞き入っていらっしゃった。
なんだかまるでえらいお(ぼう)様がありがたいお話をなさっている光景のようで、おかしくなってしまったわ。
ああいうくつろいだ夜って、内緒(ないしょ)の恋愛話が盛り上がるのよね。
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