野いちご源氏物語 〇二 帚木(ははきぎ)
「そろそろ私なりの妻選びの結論を申し上げましょう。今はもう、女性の身分や容姿にこだわりません。ひねくれた性格ではなくて、堅実で大人しい性格ならば妻にいたします。もしそれ以外の長所があれば幸運に思いますし、何か苦手な家事があっても無理に上達させようとはいたしません。浮気心がなくて嫉妬もしない女性ならば、夫に対する優しさなどはあとから自然と身につけてまいるでしょう」
これでお話が終わるかと思いきや、
「あぁそういえば、浮気に対してはどういう態度をとるのがよいかについて、まだお話ししておりませんでしたな」
と、また話が始まったの。
「一番困るのは、夫の浮気を悲しんで突然行方不明になる女です。子どものころに物語として聞いたときには、なんと気の毒な女だと同情いたしましたけれど、今思うとああいうのは軽はずみな態度ですな。
しかもそういう女は、興奮状態のまま出家することさえあるのです。家族と縁を切って、尼——女性のお坊さんとして仏教の道に本格的に入るのだ、なんて立派なことを言って。最初のうちは自分に酔っていても、周りからあれこれ言われると出家したことを後悔してしまう。罰当たりなことです。もし出家する前に運よく見つけ出せたとしても、やはり一度行方をくらました女などは、もうそれまでのように信頼できませんしね。
ある程度長い間夫婦としてやってきたのなら、多少男が浮気してもそれで関係をおしまいにしてしまうのはもったいないでしょう。何事も穏やかに、ちくりと言うにしても男が憎たらしいと思わないような言い方をしてくれれば、むしろこちらはいじらしい女だと思うものですよ。
つまり、女が男をうまくつなぎとめておけばよいのです。男を自由にしすぎると、男は気が楽ですがその女を軽んじるようになるでしょう。放っておかれるのも男としてはおもしろくありませんから。そうではございませんか」
頭中将様はうなずいて、
「たしかにそうだ。では逆に、女に浮気された場合はどうだろう。そちらの方が一大事かもしれない。男の側に悪いところはなかったとしても、事を荒立てて女を責めてはうまくいかないような気がする。やはり男にしても女にしても、相手の多少の間違いは見て見ぬふりをして、穏やかにしているのが一番よい態度だろうね」
とおっしゃる。
頭中将様はご自分の妹君のことをお考えになっていた。
「夫である源氏の君に多少の間違いがあったとしても、妹は軽はずみなことも騒ぎたてることもしないだろう。今の話をお聞きになって、自分はなかなかよい妻をもったと思ってくださっているだろうか」
と源氏の君の方をちらりとご覧になる。
源氏の君は寝たふりをなさって何もおっしゃらないので、頭中将様は、
「ずるい人だ」
とお思いになっていたようね。
これでお話が終わるかと思いきや、
「あぁそういえば、浮気に対してはどういう態度をとるのがよいかについて、まだお話ししておりませんでしたな」
と、また話が始まったの。
「一番困るのは、夫の浮気を悲しんで突然行方不明になる女です。子どものころに物語として聞いたときには、なんと気の毒な女だと同情いたしましたけれど、今思うとああいうのは軽はずみな態度ですな。
しかもそういう女は、興奮状態のまま出家することさえあるのです。家族と縁を切って、尼——女性のお坊さんとして仏教の道に本格的に入るのだ、なんて立派なことを言って。最初のうちは自分に酔っていても、周りからあれこれ言われると出家したことを後悔してしまう。罰当たりなことです。もし出家する前に運よく見つけ出せたとしても、やはり一度行方をくらました女などは、もうそれまでのように信頼できませんしね。
ある程度長い間夫婦としてやってきたのなら、多少男が浮気してもそれで関係をおしまいにしてしまうのはもったいないでしょう。何事も穏やかに、ちくりと言うにしても男が憎たらしいと思わないような言い方をしてくれれば、むしろこちらはいじらしい女だと思うものですよ。
つまり、女が男をうまくつなぎとめておけばよいのです。男を自由にしすぎると、男は気が楽ですがその女を軽んじるようになるでしょう。放っておかれるのも男としてはおもしろくありませんから。そうではございませんか」
頭中将様はうなずいて、
「たしかにそうだ。では逆に、女に浮気された場合はどうだろう。そちらの方が一大事かもしれない。男の側に悪いところはなかったとしても、事を荒立てて女を責めてはうまくいかないような気がする。やはり男にしても女にしても、相手の多少の間違いは見て見ぬふりをして、穏やかにしているのが一番よい態度だろうね」
とおっしゃる。
頭中将様はご自分の妹君のことをお考えになっていた。
「夫である源氏の君に多少の間違いがあったとしても、妹は軽はずみなことも騒ぎたてることもしないだろう。今の話をお聞きになって、自分はなかなかよい妻をもったと思ってくださっているだろうか」
と源氏の君の方をちらりとご覧になる。
源氏の君は寝たふりをなさって何もおっしゃらないので、頭中将様は、
「ずるい人だ」
とお思いになっていたようね。