〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
『夏木コーポレーションがホテル開発の件でバッシングされ、舞はいじめの主犯扱い。会社は株価も落ちてそのうち倒産だろうと噂されてる。父親の権力が地に落ちた俺には、魅力を感じなくなったんだろ?』
言葉に詰まる愛佳の態度が伶の指摘を図星だと示している。コートを羽織って席を立つ伶の腕に、蒼白の愛佳が絡み付いた。
「待って伶くんっ! ごめん、ごめんなさい……違うの……」
『何が違う? 俺と居ても愛佳は人目を気にしてる。今も沈黙を避けようとケーキも食べずに、必死で話を繋げていた。舞のインスタのフォローも解除して舞との繋がりを切ったんだよな? 俺達と関わりたくないなら、俺と別れてさっさと新しい男を見つければいい』
「そんなこと言わないで……。私は本気で伶くんが好きなの……。舞ちゃんのインスタのことは謝るからお願い……別れたくないよぉ……」
これ以上、愛佳の茶番に付き合わされるのはうんざりだ。
伶が心から大事な存在は舞だけ。舞を傷付ける者は誰であろうと許さない。
カフェの店員や居合わせた客の好奇の視線をひしひしと感じる。店内で繰り広げられる痴話喧嘩を、野次馬根性を隠しもせずに面白がる人間の心理はまったくもって理解できない。
『悪いけど、愛佳に構ってる暇はないんだ。俺への恨み辛みならツイッターにでもどこにでも好きに書けばいいけど、舞の悪口だけは絶対に許さないから。それと食べ物を粗末にする人間は嫌いだ。要らないなら、そのケーキは他に譲ってやれよ』
店員と客の好奇の目も、泣いてすがりつく愛佳も煩《わずら》わしい。泣き崩れる彼女を突き放し、愛佳の分の支払いもまとめて済ませて伶はひとりで店の外に出た。
愛佳がどうしても今日に会いたいとねだったデートも、結局は無駄な時間だった。
舞が人質になった立てこもり事件は世間に大々的に報道されている。舞はいじめの加害者でもあり、立てこもり事件の被害者でもある。
舞を気遣う良心が愛佳に少しでもあれば、舞の看病につく伶の時間を拘束する行いはできない。今日のデートをねだった愛佳の行動そのものが、彼女の本心を物語っていた。
新宿駅に向かう伶は街の雑踏に視線を走らせる。この人混みに紛れてどこかで刑事が見張っているかもしれない。
一昨日、木崎愁は警視庁に出向いて事情聴取を受けていた。名目上は紅椿学院高校の立てこもり事件の聴取でも、それが建前に過ぎないと愁も伶も承知している。
警察の目当ては愁だ。現場に己の痕跡を残さず犯行に及ぶジョーカーの正体を突き止めようと、警察は躍起になっていると伶は思い込んでいた。
だから近いうちに、愁ではなく伶への任意の聴取が要請される可能性を愁から示唆された時、伶の心には小さな動揺が生じた。
言葉に詰まる愛佳の態度が伶の指摘を図星だと示している。コートを羽織って席を立つ伶の腕に、蒼白の愛佳が絡み付いた。
「待って伶くんっ! ごめん、ごめんなさい……違うの……」
『何が違う? 俺と居ても愛佳は人目を気にしてる。今も沈黙を避けようとケーキも食べずに、必死で話を繋げていた。舞のインスタのフォローも解除して舞との繋がりを切ったんだよな? 俺達と関わりたくないなら、俺と別れてさっさと新しい男を見つければいい』
「そんなこと言わないで……。私は本気で伶くんが好きなの……。舞ちゃんのインスタのことは謝るからお願い……別れたくないよぉ……」
これ以上、愛佳の茶番に付き合わされるのはうんざりだ。
伶が心から大事な存在は舞だけ。舞を傷付ける者は誰であろうと許さない。
カフェの店員や居合わせた客の好奇の視線をひしひしと感じる。店内で繰り広げられる痴話喧嘩を、野次馬根性を隠しもせずに面白がる人間の心理はまったくもって理解できない。
『悪いけど、愛佳に構ってる暇はないんだ。俺への恨み辛みならツイッターにでもどこにでも好きに書けばいいけど、舞の悪口だけは絶対に許さないから。それと食べ物を粗末にする人間は嫌いだ。要らないなら、そのケーキは他に譲ってやれよ』
店員と客の好奇の目も、泣いてすがりつく愛佳も煩《わずら》わしい。泣き崩れる彼女を突き放し、愛佳の分の支払いもまとめて済ませて伶はひとりで店の外に出た。
愛佳がどうしても今日に会いたいとねだったデートも、結局は無駄な時間だった。
舞が人質になった立てこもり事件は世間に大々的に報道されている。舞はいじめの加害者でもあり、立てこもり事件の被害者でもある。
舞を気遣う良心が愛佳に少しでもあれば、舞の看病につく伶の時間を拘束する行いはできない。今日のデートをねだった愛佳の行動そのものが、彼女の本心を物語っていた。
新宿駅に向かう伶は街の雑踏に視線を走らせる。この人混みに紛れてどこかで刑事が見張っているかもしれない。
一昨日、木崎愁は警視庁に出向いて事情聴取を受けていた。名目上は紅椿学院高校の立てこもり事件の聴取でも、それが建前に過ぎないと愁も伶も承知している。
警察の目当ては愁だ。現場に己の痕跡を残さず犯行に及ぶジョーカーの正体を突き止めようと、警察は躍起になっていると伶は思い込んでいた。
だから近いうちに、愁ではなく伶への任意の聴取が要請される可能性を愁から示唆された時、伶の心には小さな動揺が生じた。