〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
12月7日(Fri)

 人々の視線がよそよそしい。誰も彼もが、侮蔑と好奇心と揶揄の視線を背中に向けてくる。

 ある者は匿名掲示板に、ある者はSNSに、ある者はわざとこちらに聞こえる声で、彼と彼の家族の中傷を吐き捨てる。
人間とは醜い生き物だ。鉄壁と思われた城が崩れる様を、嬉々として傍観する人々の顔は非常に醜い。

 しかしどれだけ後ろ指を指されても、夏木伶は気にしない。醜い顔をした人々の波を平然とすり抜けて彼は法栄大学のキャンパスを闊歩した。

 学生が集うピロティで来栖愛佳が待っている。伶の姿を確認した愛佳は手元のスマートフォンを慌ててバッグに戻し、余所行きの笑顔ですり寄ってきた。

愛佳の作り笑いが気持ち悪い。にこりとも笑わない伶の腕に自分の腕を絡ませた彼女は、棒立ちの伶を引っ張るように大学の敷地から退散した。
人目を気にしてまで延命させる恋人関係に何の価値がある?

 カフェに入っても終わらない愛佳の無駄話に溜息が漏れる。今日の無駄話は、クリスマスに浮かれる街を彩るイルミネーションの話題。

今年は六本木と銀座が見所だの、昨日芸能人が点灯式を行った横浜の新スポットのイルミネーションが注目されてるだのと、先ほどからインスタグラムの写真を延々と見せられている。

 新宿に先月オープンしたこのカフェの一番人気はバスクチーズケーキだ。個数制限があるバスクチーズケーキを求めて来店した客達はケーキが売り切れの事実に落胆し、恨めしげに店内の愛佳を眺めている。

 愛佳の前には手をつけていないバスクチーズケーキが皿に載ったままだ。ケーキが席に到着しても、彼女はインスタに載せるためにケーキの写真を撮影しただけで、フォークを持つ気配すらない。

個数制限で勝ち取ったケーキを食べるよりも、伶との会話に必死な愛佳が哀れで鬱陶しい。ケーキを食べないのならば、欲しがっている他の客に譲ってやればいいのに。

「それでね、ビルの屋上庭園のイルミネーションがとっても綺麗で……」
『愛佳、別れよう』

 延命のお遊びも終わりだ。彼は魔法の一言で愛佳のお喋りを強制的に停止させた。

瞬時に凍り付く愛佳の顔も、かろうじて口元はひきつった笑みを残している。
何十人と人を殺している伶が言える立場でもないが、彼女には良心が欠落していた。愛佳は仮にも友人だった女の殺人を、金と引き換えに依頼する人間だ。

「なんで……?」
『俺が気付いてないとでも思う?』

 漏れた失笑はコーヒーと共に喉の奥に呑み込まれる。空にしたコーヒーカップをテーブルに戻した伶の表情に笑みはない。
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