〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 知らず知らず犯していた致命的なミス。
〈agent〉の復讐代行の受付フォームを送信したアプリ利用者に警察関係者が紛れ込んでいたという。心当たりのある利用者のデータを解析したが、該当者二名のアプリは脱会とアンインストールされ、位置情報も追えない状態になっていた。

伶はまんまと敵の術中にはまった。警察にも頭の働く人間がいるらしい。
つまらないモラトリアムも復讐代行も、そろそろゲームオーバーだろう。

 この国は“いじめ”の行為自体には鈍感でも、“いじめ”のワードには敏感だ。

過去も現在も、残酷な行為を見てみぬフリをしてきた傍観者や主犯に協力した共犯者は、自分とは無関係の場所で発生した他人のいじめのニュースが出るや否や、正義の顔でいじめの主犯を言論で攻撃する。

かつていじめを傍観していた者、かつていじめの共犯になっていた者が手のひら返しに「いじめはよくない」と断罪する様は、異様な気持ちの悪さがある。

 いじめグループのリーダーであった過去を暴露されて、SNSで袋叩きに遭った芸能人もいれば、学生時代にいじめの加害者側にいたが、贖罪のつもりで世界からいじめを無くしたいとほざくベンチャー企業の社長もいる。
その社長は政界への介入を目論んでいると小耳に挟んだ。

 伶が復讐依頼を受けて殺害したアイドルの小柴優奈にしてもそうだ。自殺した望月莉愛をいじめていた犯人が高倉咲希ではなく優奈だと世間に露見した途端、優奈への総攻撃が始まった。

死人にくちなし、死人に悪口は届かないと高を括った彼ら、彼女らは、故人となった優奈へのあらゆる誹謗中傷をインターネットの海にばらまいていた。

 伶が思うに、いじめの加害者をインターネットの世界で誹謗中傷する人間の中には、過去にいじめられた経験がある者が半数は混ざっている。
自身が受けた過去現在のいじめと、他人のいじめのニュースを彼ら、彼女らは重ね合わせるのだ。

 SNS、匿名掲示板、動画サイト、ネットニュースのコメント欄で舞に向けられる罵詈雑言と敵意は、そのすべてが舞への恨みではなく、舞に重ねている憎い“あいつ”への恨み。

いじめの被害者は、そうして自分が今度は加害者側に回っている現実に気が付かない。被害者は加害者になっても、いつまでも被害者面をする。
舞への復讐を企《くわだ》てた大橋雪枝もそのひとりだった。

 立てこもり事件が発生した4日午後から、舞のインスタグラムとツイッターには、中傷のコメントやダイレクトメッセージが寄せられている。

多い時は1時間にコメントやリプライが200件以上、ダイレクトメッセージが100通以上、すべて伶が舞に代わって削除していた。削除してもまた送られる中傷コメントは見えない敵とのいたちごっこ。

始末の悪いことに、舞のインスタグラムのユーザー情報は来栖愛佳を含めたフォロワー数の多いインスタグラマーを中傷する匿名掲示板のスレッドから流出していた。愛佳と親しい間柄にある何者かが、愛佳の悪口ついでに舞のインスタの情報を掲示板に書き込んだのだ。
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