〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
ノックの後に日浦の手でコーヒーが三つ届けられた。砂糖を多めに入れる美夜を、愁が物珍しげに観察している。
三人がそれぞれコーヒーに口をつけ終えた後、美夜はタブレット端末を愁に向けた。端末に表示したのは、雨宮が銀行の貸金庫に保管していた舞との性交動画のデータだ。
無音設定にした動画を一時停止させ、美夜は男を指差す。
「ここに映っている男が雨宮冬悟、一緒にいる女の子は夏木会長のお嬢さんの舞ちゃんよね?」
『舞のことで話を聞きたいと言っていたから何のことかと思えば、こういうことか』
「この動画を見るのは初めてではなさそうね。舞ちゃんのこんな映像を初めて見せられたら、あなたは動揺しそうなものだけど。動画を前にも見たことがあるでしょう?」
愁がいくらポーカーフェイスな男でも、家族同然に接している少女が中年男と性行為を行っている場面を目にすれば、少なからず表情に動揺の気配が漂う。
だが動画を見ても愁は平常心を保っていた。まったく動じていない。
『仮に俺がこの動画を前にも見ていたとして、それが雨宮さんが骨となって見つかった件とどう関係がある?』
「雨宮はヤクザとの間に金銭トラブルがあった。舞ちゃんが夏木コーポレーション会長の娘と知って近付き、夏木会長の弱味となる娘の性的な動画をネタにして金を強請《ゆすり》に来たんじゃない?」
しばし無言で見つめ合う美夜と愁。男女の甘ったるい駆け引きを封じた、刑事と犯罪者の視線のみの攻防戦。
『証拠は?』
「証拠?」
『雨宮さんが夏木会長を強請った証拠。それがなければ雨宮さんと夏木会長は結びつけられない。警察が掴んでいる証拠は、雨宮さんが舞の援助交際相手だったと示すこの動画だけだろ?』
雨宮のスマートフォンは行方不明、自宅のパソコンからは夏木会長への脅迫を明示する証拠は出なかった。
美夜は視線を隣の九条に移す。小さくかぶりを振った九条の顔には、ここで一旦引けと書いてあった。
『もしもそのような証拠が見つかった際には、またお越しください。今度は会長と共に話を伺いますよ』
証拠はすべて消してあると暗に含んだ、勝ち誇った表情の愁が憎らしい。
「雨宮の件で舞ちゃんに話を聞かせてもらえない?」
『舞は未成年だからな。任意での聴取なら答えはNOだ。今後は男遊びはしないように俺から叱っておく。警察の説教は必要ない』
せめてもの悪あがきにと食らい付いた舞への聴取も、呆気なく拒否された。この部屋には盗聴器でも付いているのか、タイミングよく廊下側から日浦が開けた扉が、美夜達に退室を急《せ》かしている。
敗北を背負って応接室を去る間も愁とは一切目を合わせなかった。こちらを見つめる愁の視線を背中に感じながら、その視線が持つ意味を彼女は考えないようにしていた。
三人がそれぞれコーヒーに口をつけ終えた後、美夜はタブレット端末を愁に向けた。端末に表示したのは、雨宮が銀行の貸金庫に保管していた舞との性交動画のデータだ。
無音設定にした動画を一時停止させ、美夜は男を指差す。
「ここに映っている男が雨宮冬悟、一緒にいる女の子は夏木会長のお嬢さんの舞ちゃんよね?」
『舞のことで話を聞きたいと言っていたから何のことかと思えば、こういうことか』
「この動画を見るのは初めてではなさそうね。舞ちゃんのこんな映像を初めて見せられたら、あなたは動揺しそうなものだけど。動画を前にも見たことがあるでしょう?」
愁がいくらポーカーフェイスな男でも、家族同然に接している少女が中年男と性行為を行っている場面を目にすれば、少なからず表情に動揺の気配が漂う。
だが動画を見ても愁は平常心を保っていた。まったく動じていない。
『仮に俺がこの動画を前にも見ていたとして、それが雨宮さんが骨となって見つかった件とどう関係がある?』
「雨宮はヤクザとの間に金銭トラブルがあった。舞ちゃんが夏木コーポレーション会長の娘と知って近付き、夏木会長の弱味となる娘の性的な動画をネタにして金を強請《ゆすり》に来たんじゃない?」
しばし無言で見つめ合う美夜と愁。男女の甘ったるい駆け引きを封じた、刑事と犯罪者の視線のみの攻防戦。
『証拠は?』
「証拠?」
『雨宮さんが夏木会長を強請った証拠。それがなければ雨宮さんと夏木会長は結びつけられない。警察が掴んでいる証拠は、雨宮さんが舞の援助交際相手だったと示すこの動画だけだろ?』
雨宮のスマートフォンは行方不明、自宅のパソコンからは夏木会長への脅迫を明示する証拠は出なかった。
美夜は視線を隣の九条に移す。小さくかぶりを振った九条の顔には、ここで一旦引けと書いてあった。
『もしもそのような証拠が見つかった際には、またお越しください。今度は会長と共に話を伺いますよ』
証拠はすべて消してあると暗に含んだ、勝ち誇った表情の愁が憎らしい。
「雨宮の件で舞ちゃんに話を聞かせてもらえない?」
『舞は未成年だからな。任意での聴取なら答えはNOだ。今後は男遊びはしないように俺から叱っておく。警察の説教は必要ない』
せめてもの悪あがきにと食らい付いた舞への聴取も、呆気なく拒否された。この部屋には盗聴器でも付いているのか、タイミングよく廊下側から日浦が開けた扉が、美夜達に退室を急《せ》かしている。
敗北を背負って応接室を去る間も愁とは一切目を合わせなかった。こちらを見つめる愁の視線を背中に感じながら、その視線が持つ意味を彼女は考えないようにしていた。