〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 美夜から指輪を取り上げた愁は彼女の左手薬指にそっと、指輪を通した。美夜の指で輝く華奢な指輪は、ピンクゴールドに同じ色の鈴蘭の花が咲いている。細部にはオーロラのストーンがあしらわれていた。

『サイズは七号らしいが、少し緩いか?』
「大丈夫。……ありがとう」

 今度は美夜の頬が赤く染まった。愁が女に指輪を贈るのが初めてなら、美夜も男に指輪を贈られるのは初めてだ。

躊躇なく美夜の左手薬指に指輪を嵌めた愁の気持ちに泣きたくなった。潤んだ目元を誤魔化してケーキを口にする美夜を愁もまた、潤んだ瞳で見据えている。

 生クリームの雪原には真っ赤に熟した苺がいた。愁は自分の皿に載るケーキの苺を手掴みで口に運び、半分かじった苺を美夜の口に放り込んだ。
愁の食べかけの苺は瑞々《みずみず》しくてとても甘い。

「甘い……」
『甘いな』

当たり前の感想を二人して呟いて、今度は美夜が指で持ち上げた生クリームつきの苺を半分かじる。美夜がかじった苺は愁の口に吸い込まれ、クリームが付着する彼女の指先も彼の口の中で弄ばれた。

「んっ……。指、食べないでよ……」
『指舐められたくらいで発情するな』
「発情してるのはそっちでしょ」
『お前が物欲しそうな顔するからだろ?』

 今の自分がどんな顔をしているか、自分ではわからない。けれど相手から見える雄の顔と雌の顔が、情欲の気配を煽っていた。

 ケーキを口に含んだ愁とキスを交わす。開いた唇の隙間から侵入した愁の舌先が、ケーキの味を美夜に届けた。
二人分の唾液にまみれた生クリームとスポンジと苺が、咀嚼音を奏でながら口の中で甘くとろける。

ケーキの次に口移しで愁に飲まされたロゼが美夜の喉をゴクリと鳴らす。何度も何度も、愁は薔薇色のワインを口移しで美夜に飲ませた。

 ほろ酔いの美夜の身体がソファーに横たわり、愁もとろりと溶けた目尻を微笑ませてワインで湿った唇を美夜に重ねた。

キスの合間に口内に注がれるワインが美夜は上手く飲み込めず、薔薇色の液体が口の端から滴り落ちる。火照って桃色に色付いた首筋に一筋垂れたワインは、愁が舌を這わせて舐めとった。

 髭のなくなった愁の顔は首筋に伏せられたまま浮上しない。肌を官能的に這う彼の舌の感触が美夜の奥を昂《たかぶ》らせる。

身体が熱いのは口移しのワインのせい?
吐息が甘いのは愁の愛撫のせい?

 身体を起こした美夜の背中はソファーの背もたれに縫い止められ、開いた左右の脚の隙間から、ショーツが剥がれた女の部分が愁の視線に晒される。

 愁の指が表面をなぞるだけで、蜜壺はくちゅっと甘ったるい水音を漏らして悦《よろこ》んだ。巧みに動く骨張った長い指は表面から割れ目へ、やがて湿潤の奥に呑み込まれ、その後に触れた彼の唇の柔らかさに歓喜する。

「……っ、ぁっ……!」

息遣いも声も下半身も、聴きたくないのに美夜の身体から漏れる欲情の音はどんどん、どんどん、大胆になった。

 彼にもっと触れて欲しくて、もっと舐めて欲しくて、もっと吸い付くして欲しくて、もっと淫らに壊して欲しい。

 理性も思考もどこかに消えた酩酊《めいてい》間近の情事のはじまり。

苺よりもケーキよりもロゼのワインよりも甘ったるい愛に酔いしれて、神罰《しんばつ》の恋人達はクリスマスイブの夜に深く沈んだ。
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