〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
続いて小山真紀が明智の子どもに言及した。
「殺された明智信彦の娘が、雨宮冬悟の援助交際相手である件《くだん》の動画の夏木舞です。事件の後に、兄の明智伶と妹の舞は夏木十蔵の養子に入っています」
会議室が騒がしくなった。厄介な相関図に、刑事達は昨日の美夜と同じく戸惑っている。動揺を隠せない九条に腕を小突かれた。
『夏木十蔵の娘の件はどこまで知ってた?』
「舞ちゃんが明智の娘ってことは木崎さんから聞いて知ってる。ちゃんと主任と一課長にも話したよ。舞ちゃんの母親の話もね」
真紀の話には続きがあった。夏木伶と舞の母親が雨宮冬悟の妹、雨宮紫音である事実に今度は誰もが納得の溜息をついている。
繋がった10年前の埼玉不動産会社社長夫妻の殺人事件と雨宮冬悟の事件。
午後には京都の雨宮本家より現当主の妹、雨宮蘭子の聴取が予定されている。雨宮冬悟と紫音の話も蘭子から聞けるはずだ。
けれど夏木舞を取り巻く事情はもっと根深く、複雑だった。舞は明智信彦の娘ではなく、夏木十蔵の血の繋がった娘だ。
雨宮冬悟が姪の舞と肉体関係を結んだ根底には、紫音と夏木十蔵の不倫がある。
次にモニターに表示されたのは、今年4月に東京の立川市で起きた半グレ集団レイヴンのメンバーが射殺された事件。立川の雑居ビルでレイヴンの頭《かしら》と愛人、計六人が射殺された。
8月には東京の城東区域をシマにしている中規模暴力団組織、木羽《きば》会が一夜にして壊滅した。木羽会の本部には木羽会の会長と若頭、他数十名のヤクザの死体が転がっていたと言う。
さらに記憶に新しい、先月の伊吹大和の殺害。どの事件も銃殺の未解決事件だ。
夏木十蔵専属の殺し屋、ジョーカーは少なくとも10年近く前から夏木の側にいる人間に限られる。
年齢や立場を考慮しても、否応なしに会長秘書の木崎愁に嫌疑の目が向く。現状、木崎愁ジョーカー説が最有力だった。
配布された捜査の振り分け表に美夜の名前はない。木崎愁に近しい存在と見なされた美夜は、今後のジョーカー関連の捜査への関わりを禁じられた。
これは上野一課長と美夜の上司の小山真紀の判断だ。
雨宮冬悟殺害事件の捜査本部での美夜の最後の仕事は、14時に東京駅に到着する雨宮蘭子の送迎のみ。しばらくは内勤業務だ。
デスクワークを命じられて都合が良かった。今朝から体調が優れず、生理3日目になっても経血の量は減るどころか増えている。
誰もいないトイレでつく溜息はもう何度目?
生理中はメンタルが不安定になりやすい。加えて捜査線上に浮上した木崎愁ジョーカー説が、美夜の心に暗い影を落とした。
刑事の美夜と女の美夜の感情がせめぎ合う。化粧室の鏡に映る女の顔は、どちらの美夜?
鏡の向こうにいる顔色が悪い女がまたひとつ、幸せを逃す溜息を吐き出した。
愁がジョーカーであろうとなかろうと、彼は美夜の目の前で殺人を犯した。愁の逮捕は免《まぬが》れない。
いずれ訪れるその時の覚悟が、まだ定まらなかった。
「殺された明智信彦の娘が、雨宮冬悟の援助交際相手である件《くだん》の動画の夏木舞です。事件の後に、兄の明智伶と妹の舞は夏木十蔵の養子に入っています」
会議室が騒がしくなった。厄介な相関図に、刑事達は昨日の美夜と同じく戸惑っている。動揺を隠せない九条に腕を小突かれた。
『夏木十蔵の娘の件はどこまで知ってた?』
「舞ちゃんが明智の娘ってことは木崎さんから聞いて知ってる。ちゃんと主任と一課長にも話したよ。舞ちゃんの母親の話もね」
真紀の話には続きがあった。夏木伶と舞の母親が雨宮冬悟の妹、雨宮紫音である事実に今度は誰もが納得の溜息をついている。
繋がった10年前の埼玉不動産会社社長夫妻の殺人事件と雨宮冬悟の事件。
午後には京都の雨宮本家より現当主の妹、雨宮蘭子の聴取が予定されている。雨宮冬悟と紫音の話も蘭子から聞けるはずだ。
けれど夏木舞を取り巻く事情はもっと根深く、複雑だった。舞は明智信彦の娘ではなく、夏木十蔵の血の繋がった娘だ。
雨宮冬悟が姪の舞と肉体関係を結んだ根底には、紫音と夏木十蔵の不倫がある。
次にモニターに表示されたのは、今年4月に東京の立川市で起きた半グレ集団レイヴンのメンバーが射殺された事件。立川の雑居ビルでレイヴンの頭《かしら》と愛人、計六人が射殺された。
8月には東京の城東区域をシマにしている中規模暴力団組織、木羽《きば》会が一夜にして壊滅した。木羽会の本部には木羽会の会長と若頭、他数十名のヤクザの死体が転がっていたと言う。
さらに記憶に新しい、先月の伊吹大和の殺害。どの事件も銃殺の未解決事件だ。
夏木十蔵専属の殺し屋、ジョーカーは少なくとも10年近く前から夏木の側にいる人間に限られる。
年齢や立場を考慮しても、否応なしに会長秘書の木崎愁に嫌疑の目が向く。現状、木崎愁ジョーカー説が最有力だった。
配布された捜査の振り分け表に美夜の名前はない。木崎愁に近しい存在と見なされた美夜は、今後のジョーカー関連の捜査への関わりを禁じられた。
これは上野一課長と美夜の上司の小山真紀の判断だ。
雨宮冬悟殺害事件の捜査本部での美夜の最後の仕事は、14時に東京駅に到着する雨宮蘭子の送迎のみ。しばらくは内勤業務だ。
デスクワークを命じられて都合が良かった。今朝から体調が優れず、生理3日目になっても経血の量は減るどころか増えている。
誰もいないトイレでつく溜息はもう何度目?
生理中はメンタルが不安定になりやすい。加えて捜査線上に浮上した木崎愁ジョーカー説が、美夜の心に暗い影を落とした。
刑事の美夜と女の美夜の感情がせめぎ合う。化粧室の鏡に映る女の顔は、どちらの美夜?
鏡の向こうにいる顔色が悪い女がまたひとつ、幸せを逃す溜息を吐き出した。
愁がジョーカーであろうとなかろうと、彼は美夜の目の前で殺人を犯した。愁の逮捕は免《まぬが》れない。
いずれ訪れるその時の覚悟が、まだ定まらなかった。