〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
紫音への憎悪が膨らんだ母の恨み言を日夜聞かされ、凛子と紫音、二人の愛人の存在に苛立つ正妻の朋子は、心身が未成熟な十五歳の愁を手に入れることで凛子への復讐を叶えた。
朋子のベッドに呑み込まれた十五の夏を、愁は今でも夢に見る。愁も伶と同じ悪夢を抱えていた。
だから愁は伶をほうっておけなかった。自分と同じ悪夢を抱えた伶と、半分血の繋がった妹の舞。
ふたりをどうしても守りたかった。
……守り抜きたかった。
夏木十蔵の息子……呪われた血を引く愁はいつも女の欲望の道具に使われた。いつだって愁は、女に人生を奪われてきた。
この呪わしい人生の中心には夏木十蔵がいる。父であり、愁が誰よりも殺したい男だ。
『お前達から母親を奪ったのは俺の母だ。申し訳ない』
頭を下げた愁を、伶と舞は無言で見つめていた。リビングの壁掛け時計の針はこの静寂の合間にどれだけ進んだ?
「……そっかあ。ずっと不思議だったことがわかっちゃった。愁さんが舞とお兄ちゃんの世話を焼くのは、舞達のお母さんを死なせちゃった償いなんだね」
気の遠くなる静寂を終わらせたのは、壊れた機械人形のように連続する舞の笑い声だった。
不気味な明るさを孕んだ舞の笑顔が痛々しくて直視できない。
『そう思われても仕方ない。せめてお前達が社会に出る年齢になるまで、近くで見守ろうと決めたんだ。……それが仇《あだ》となるとは思わなかった』
罪滅ぼしを理由に始まった、伶と舞との同居生活の誤算は舞が愁に抱いた幼い恋心。父親の愛に極端に飢えていた舞が寝食を共にする年上の男に恋をするのも、よくよく考えれば必然だったのに。
『舞、ごめんな。俺は妹と恋愛はできない』
恋をしてはいけない相手に恋をした舞のやるせない想いが愁にはわかる。
どうして、どうして、と、どうにもならない恋の相手との関係に心はひび割れて血だらけだ。
最後は涙も流さず虚ろな瞳で舞はリビングを去った。自室に籠《こも》る舞の様子を見に行っていた伶が、溜息を引き連れて戻ってくる。
『一杯だけ付き合わせてください』
もうひとつロックグラスを携えて伶は愁の横に並んだ。顔を見て話すよりも肩を並べる方が互いに気は楽だった。
『愁さんの秘密主義には慣れましたが、今回はキツかったです。舞のパパ活や母と夏木会長の関係を知って、俺も混乱している。俺と舞が半分しか血の繋がりがなかったことも全部、知りたくなかった』
『すまない。舞の父親の件は、お前にはいずれ話すつもりでいたんだ。それもお前が夏木コーポレーションを継ぐタイミングで話す予定だったからな。俺としても予想外のタイミングだ』
琥珀色の液体を伶のグラスに注いでやる。喉を鳴らして酒を呷《あお》った伶はソファーの背に頭を預けた。
朋子のベッドに呑み込まれた十五の夏を、愁は今でも夢に見る。愁も伶と同じ悪夢を抱えていた。
だから愁は伶をほうっておけなかった。自分と同じ悪夢を抱えた伶と、半分血の繋がった妹の舞。
ふたりをどうしても守りたかった。
……守り抜きたかった。
夏木十蔵の息子……呪われた血を引く愁はいつも女の欲望の道具に使われた。いつだって愁は、女に人生を奪われてきた。
この呪わしい人生の中心には夏木十蔵がいる。父であり、愁が誰よりも殺したい男だ。
『お前達から母親を奪ったのは俺の母だ。申し訳ない』
頭を下げた愁を、伶と舞は無言で見つめていた。リビングの壁掛け時計の針はこの静寂の合間にどれだけ進んだ?
「……そっかあ。ずっと不思議だったことがわかっちゃった。愁さんが舞とお兄ちゃんの世話を焼くのは、舞達のお母さんを死なせちゃった償いなんだね」
気の遠くなる静寂を終わらせたのは、壊れた機械人形のように連続する舞の笑い声だった。
不気味な明るさを孕んだ舞の笑顔が痛々しくて直視できない。
『そう思われても仕方ない。せめてお前達が社会に出る年齢になるまで、近くで見守ろうと決めたんだ。……それが仇《あだ》となるとは思わなかった』
罪滅ぼしを理由に始まった、伶と舞との同居生活の誤算は舞が愁に抱いた幼い恋心。父親の愛に極端に飢えていた舞が寝食を共にする年上の男に恋をするのも、よくよく考えれば必然だったのに。
『舞、ごめんな。俺は妹と恋愛はできない』
恋をしてはいけない相手に恋をした舞のやるせない想いが愁にはわかる。
どうして、どうして、と、どうにもならない恋の相手との関係に心はひび割れて血だらけだ。
最後は涙も流さず虚ろな瞳で舞はリビングを去った。自室に籠《こも》る舞の様子を見に行っていた伶が、溜息を引き連れて戻ってくる。
『一杯だけ付き合わせてください』
もうひとつロックグラスを携えて伶は愁の横に並んだ。顔を見て話すよりも肩を並べる方が互いに気は楽だった。
『愁さんの秘密主義には慣れましたが、今回はキツかったです。舞のパパ活や母と夏木会長の関係を知って、俺も混乱している。俺と舞が半分しか血の繋がりがなかったことも全部、知りたくなかった』
『すまない。舞の父親の件は、お前にはいずれ話すつもりでいたんだ。それもお前が夏木コーポレーションを継ぐタイミングで話す予定だったからな。俺としても予想外のタイミングだ』
琥珀色の液体を伶のグラスに注いでやる。喉を鳴らして酒を呷《あお》った伶はソファーの背に頭を預けた。