〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 育休明けで職場復帰した時には失っている自分の居場所、消失するキャリア、育児ノイローゼに保育園の待機児童問題やママ友との交流。

妊娠しても、しなくても、授かっても流産、死産、五体満足で生まれてくるとも限らない。

 結局どの選択をしても女は生き辛い。無論、男には男の生き辛さがあるが、毎月の生理も含めて身体的に抱える負担や、性交渉に潜む不安は圧倒的に男よりも女が多い。

 子どもはいらない、妊娠もしたくない。
けれど盛りのついた獣同然に行った考えなしの性交渉。二人の間に愛があれば……なんて綺麗事だ。
自分がここまで馬鹿な人間だとは思わなかった。

「後先考えずにやることやって生理が来てホッとして、二十八にもなって馬鹿みたいだよね」
『俺は馬鹿とは思わないな。女として普通の感情の揺らぎじゃないのか?』
「その普通に自分が当てはまるとは思わなかったんだよ」
『散々見下してきた恋愛脳の女達と自分が同じだと知ってショック受けてる?』
「見下してきてはいないと思うけど……、でも確かに恋愛に夢中な友達を冷めた目で見ていた節はあった」

 真夜中の楽園から目覚めた朝の景色に木崎愁はいなかった。彼が忘れていった煙草の箱は、そのまま家で保管している。

愁は何のために煙草を置いていったのだろう。単に忘れただけかもしれない。
あの一夜のように煙草の忘れ物も意味のない行為?

 箱には煙草が二本残っていた。煙草の賞味期限なんて知らないが、とっくに吸えなくなっている。
ゴミ同然の物をいつまでも捨てられない女も、二本だけ残した煙草を置いていく男も、どちらも女々しい。

「男が部屋に自分の持ち物を置き忘れる心理って何?」
『わざとの場合は、忘れ物あるけどって女から連絡してくるのを待ってるんじゃねぇの?』
「その連絡をしてもシカトされてる場合は?」
『それはもう最低……だよな』
「あの人が最低なのはわかってる」
『なんでそんな奴と……』

 二人の話に割り込んだのは警察車両の無線連絡だ。
10分前、荒川区内の小学校の通学路付近で下校中の小学生の女児が男にナイフで切り付けられた。女児の怪我は軽症、男は徒歩で日暮里《にっぽり》駅方面に逃走した。

『今週も出たか。月曜日の切り裂きジャック』
「春の時と同じで、マスコミもつくづく嫌な呼び名をつけるよね」

 警視庁は先月から毎週月曜日に発生している女児連続切りつけ事件で忙しない。
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