〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
どこをどう攻め込むか、SITの捜査員と上野一課長が協議する最中に挙手をしたのは九条だった。
『一課長、俺を学校に行かせてください』
SITや、場合によってはSAT(特殊急襲部隊)が本陣である教室を制圧する前に、捜査員が学校に潜入して散らばっている犯人達を確保する必要がある。九条はその特攻の役割を買って出た。
『犯人グループは銃を所持している。万一の時は人質の命を最優先にし、犯人を狙撃する覚悟はできているか?』
『できています。それに俺は雪枝ちゃんを他の刑事には逮捕させたくないんです。雪枝ちゃんがこんなことをしてしまう前に、俺が彼女の苦しみに気付くべきだった。雪枝ちゃんのことは最後まで俺に責任を取らせてください。お願いします』
対策本部に到着して以降、九条は雪枝のスマートフォンに連絡をし続けている。幾度も連絡を試みたが、雪枝は電話に出ない。
けれど数分前に雪枝から九条宛に届いたトークアプリのメッセージには、〈ごめんなさい〉の文字が綴られていた。
以前の美夜は、九条の決意を無鉄砲だと諭して止めただろう。特殊訓練を受けたSITやSATの所属ならいざ知れず、殺人捜査専門の刑事には先陣を切る特攻の役割は荷が重い。
しかし雪枝を他の刑事に逮捕させたくない気持ちが美夜には痛いほどわかる。愁を一瞥してから、彼女は九条の横に並んで上野に頭を下げた。
「私が九条くんを補佐します。だから九条くんを行かせてあげてください。雪枝ちゃんは九条くんが来てくれるのを待っています」
美夜の援護も加わり、上野とSITの捜査員はしかめた顔を見合わせた。しばしの黙考を経て、上野が小さく息をつく。
『……九条、神田。お前達の任務は校内に散らばる犯人グループの確保、SITが制圧の準備を整えるまでの囮《オトリ》としての時間稼ぎと制圧の動線作り、それと雪枝の説得。すべてを二人でやりきれるか?』
「はい」
『じゃあ俺も一緒に行かせてもらおう』
美夜と九条の背後に潜んだ低い声に、場がざわついた。さすがの美夜も驚きを隠せず、振り向いた先にいる木崎愁を揺らいだ眼差しで見据える。
愁に返答を返したのは、美夜ではなく上野だ。
『木崎さんが夏木会長のお嬢さんを心配するお気持ちは理解します。けれど今のあなたの立場はあくまでも民間人、ここは我々に任せていただきたい』
『ご心配なく。自分の身は自分で守れます。俺もそちらの九条さんと同じなんですよ。舞を自分で助けに行きたいだけです』
犯人側が指定した16時のタイムリミットは刻々と迫っている。押し問答をしている時間の余裕はなかった。
『わかりました。ですが潜入の際は神田と九条の指示に従ってください。くれぐれも単独行動は謹むように、頼みます』
上野に頷き返す愁を見つめる刑事達の誰もが、同じことを思っていた。
木崎愁が本当にただの民間人ならば、足手まといになるだけだ。もしもこの潜入で愁がジョーカーの片鱗《へんりん》を見せてしまったら、ジョーカー逮捕への流れは一気に加速する。
錯綜《さくそう》する刑事達の期待と思惑の視線を愁は気にも留めない。彼の頭にあるのは、舞の救出の一点のみ。
今の愁は会長秘書でもジョーカーでもない。
妹を助けに戦地に乗り込む覚悟を決めた、兄の顔をしていた。
『一課長、俺を学校に行かせてください』
SITや、場合によってはSAT(特殊急襲部隊)が本陣である教室を制圧する前に、捜査員が学校に潜入して散らばっている犯人達を確保する必要がある。九条はその特攻の役割を買って出た。
『犯人グループは銃を所持している。万一の時は人質の命を最優先にし、犯人を狙撃する覚悟はできているか?』
『できています。それに俺は雪枝ちゃんを他の刑事には逮捕させたくないんです。雪枝ちゃんがこんなことをしてしまう前に、俺が彼女の苦しみに気付くべきだった。雪枝ちゃんのことは最後まで俺に責任を取らせてください。お願いします』
対策本部に到着して以降、九条は雪枝のスマートフォンに連絡をし続けている。幾度も連絡を試みたが、雪枝は電話に出ない。
けれど数分前に雪枝から九条宛に届いたトークアプリのメッセージには、〈ごめんなさい〉の文字が綴られていた。
以前の美夜は、九条の決意を無鉄砲だと諭して止めただろう。特殊訓練を受けたSITやSATの所属ならいざ知れず、殺人捜査専門の刑事には先陣を切る特攻の役割は荷が重い。
しかし雪枝を他の刑事に逮捕させたくない気持ちが美夜には痛いほどわかる。愁を一瞥してから、彼女は九条の横に並んで上野に頭を下げた。
「私が九条くんを補佐します。だから九条くんを行かせてあげてください。雪枝ちゃんは九条くんが来てくれるのを待っています」
美夜の援護も加わり、上野とSITの捜査員はしかめた顔を見合わせた。しばしの黙考を経て、上野が小さく息をつく。
『……九条、神田。お前達の任務は校内に散らばる犯人グループの確保、SITが制圧の準備を整えるまでの囮《オトリ》としての時間稼ぎと制圧の動線作り、それと雪枝の説得。すべてを二人でやりきれるか?』
「はい」
『じゃあ俺も一緒に行かせてもらおう』
美夜と九条の背後に潜んだ低い声に、場がざわついた。さすがの美夜も驚きを隠せず、振り向いた先にいる木崎愁を揺らいだ眼差しで見据える。
愁に返答を返したのは、美夜ではなく上野だ。
『木崎さんが夏木会長のお嬢さんを心配するお気持ちは理解します。けれど今のあなたの立場はあくまでも民間人、ここは我々に任せていただきたい』
『ご心配なく。自分の身は自分で守れます。俺もそちらの九条さんと同じなんですよ。舞を自分で助けに行きたいだけです』
犯人側が指定した16時のタイムリミットは刻々と迫っている。押し問答をしている時間の余裕はなかった。
『わかりました。ですが潜入の際は神田と九条の指示に従ってください。くれぐれも単独行動は謹むように、頼みます』
上野に頷き返す愁を見つめる刑事達の誰もが、同じことを思っていた。
木崎愁が本当にただの民間人ならば、足手まといになるだけだ。もしもこの潜入で愁がジョーカーの片鱗《へんりん》を見せてしまったら、ジョーカー逮捕への流れは一気に加速する。
錯綜《さくそう》する刑事達の期待と思惑の視線を愁は気にも留めない。彼の頭にあるのは、舞の救出の一点のみ。
今の愁は会長秘書でもジョーカーでもない。
妹を助けに戦地に乗り込む覚悟を決めた、兄の顔をしていた。