〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 大和を殺した犯人が木崎愁だと知っているのに、それを上司にも相棒の九条にも報告できない。刑事ならば真っ先に愁の両手に手錠をかけるべきだと頭ではわかっている。

犯罪者を庇う自分は警察官を名乗る資格もない。九条や上司の顔を見るたびに彼らへの裏切りに心が軋《きし》んだ。

 うじうじと悩む自身に失望する毎日は終わりにしたい。もう、愁の件で頭を悩まされるのはこりごりだ。

 あの男は刑事である自分が交わってはいけない人。
この恋は決して叶えてはいけない。
永遠に実らない、徒花《あだばな》の恋の花。

愛した男が人殺しだった。
ただ……それだけ。

 警視庁に戻る道中で、再び上司の小山真紀から美夜のスマートフォンに連絡が来た。要件は土曜日に発見された身元不明の人骨について、少々厄介な結果になったとだけ伝えられた。

詳しくは美夜と九条が戻り次第、会議を行うと早口に告げて真紀は早々に通話を終えてしまう。

「主任、珍しく焦ってるみたいだった。厄介な結果って何だろう……」
『土曜の人骨発見って、城南島で高校生のカップルが見つけたアレか』

 11月10日土曜日14時頃、東京都大田区の城南島《じょうなんじま》海浜公園に来ていた高校生の男女が浜辺で人の骨らしき異物を発見、その場で警察に通報した。
城南島を管轄する東京湾岸警察署の署員が現場に駆けつけ、砂粒まみれの骨を回収。

少年少女は自分達がここに到着した時は浜辺には誰もいなかったと証言した。辺りを探しても同様の異物はなく、何らかの事象によって海を漂流していた骨が海浜公園の浜辺に流れついたようだ。

「見つかったのは上腕骨《じょうわんこつ》だったかな……。ここ数ヶ月以内に捜索願いの届けが出ていた人間のDNAと片っ端から照合して、さっき結果が出たらしい」
『会議ってことは、判明した身元が相当まずい奴だったんじゃないか?』

 火葬された骨はDNAが消滅しているが、見つかった人骨は火葬を施されていなかった。
湾岸署は変死体の一部として警視庁に報告。この件は湾岸署を離れて、警視庁と科捜研に捜査権が移っている。

 早く戻れとの指示だ。悠長に渋滞に巻き込まれている場合ではない。
警察車両に取り付けたサイレンを鳴らしながら車と車の隙間をすり抜け、二人は警視庁に帰還した。
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