〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 半年後に現れた二人目の切り裂きジャックの犯行の残虐さは、回を重ねるごとにエスカレートしている。服の切り裂きでは衝動が収まらず、四件目の今回は児童の足を狙って切りつけていた。

ここで犯行を食い止めなければ、いずれは殺人や強姦に発展する危険を孕む陰鬱な事件だ。

 鎮火しつつあった21世紀の切り裂きジャックの話題も、月曜日の切り裂きジャックの出現で再びワイドショーやネットで蒸し返されている。デリヘル嬢連続殺人の犯人は美夜にとって、顔も名前も思い出したくない相手だった。

 九条のスマートフォンにパトロールを終えて警視庁に戻るようにと上司の指示が入る。荒川区で犯行を終えて逃走した犯人の捜索は続けられているが、美夜と九条がいる墨田区内におそらく犯人はいない。

『さっきの話の続きしていい?』
「何の話?」
『とぼけるな。避妊もしない、家に忘れ物はするくせにその後の連絡もシカトするような最低な奴だとわかっていて、なんで誕生日の夜に会ったりしたんだ?』

 何故と聞かれたら、誕生日の夜に愁が訪ねてきたからだとしか答えはない。けれどそれでは、愁だけに責任を押し付ける形になる。

大学の友人が恋愛は共犯関係だと言っていた。何があっても責任は二人分。
出会いも喧嘩も別れも、責任は常に両者にある。

「誕生日の夜に会う約束してたから、私も彼が来てくれるのを待ってた。自分勝手な人だとわかっていたけど、彼が連絡を無視する理由は理解できる。それが二人にとっての最善策だってこともね。連絡を断つくらいなら煙草を私の家に置いていかなければいいのにって、腹が立ってるだけよ」
『深入りするつもりはねぇけど、事情が全然わかんねぇ。最善策ってどういうこと?』
「これ以上関わりを持ってはダメなの。好きになってはいけない存在の人だった。そういうことよ」
『まさかその男、既婚者? 大丈夫か?』

 確かにこれまでの美夜の言い方では、事情を知らない第三者には不倫の恋に捉えられても仕方ない。刑事が絶対に恋愛対象としてはならない存在……木崎愁は人殺しだ。

「既婚者ではない……と思う。そういう類いの“立場”じゃないよ。私とあの人の住む世界が違うだけ」

 先月の大学生連続殺人事件の最後の被害者、伊吹大和《いぶき やまと》を殺した犯人は美夜だけが知っている。大和だけが銃殺の点から、捜査一課は組織犯罪対策部と連携して大和の殺人事件の捜査を継続していた。
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