〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 休む暇もなく移動した会議室に集うメンバーは捜査一課長の上野恭一郎、小山真紀と杉浦誠、そして科捜研の職員と何故か組織犯罪対策部の百瀬《ももせ》警部、渋谷警察署から刑事が二人列席している。

 科捜研の職員が人骨の鑑定結果を読み上げた。城南島海浜公園の浜辺に打ち上げられていた上腕骨の身元は雨宮冬悟、フラワー空間デザインを専門とするアスターカンパニーの社長だ。

(雨宮……その名前どこかで……)

続く雨宮の家柄の説明は簡潔に済まされたが、その説明だけで美夜が思い出すには充分だった。

 京都の名門華道一族、雨宮家の東京分家長男が雨宮冬悟。
夏にインスタグラマー殺人事件の捜査で訪れた日本橋の美術館、アクアドリームのプロデュースをしたのはフラワーデザイナーの雨宮蘭子。

あの時に入手したアクアドリームのリーフレットで美夜は蘭子の名を目にしていた。雨宮冬悟と蘭子は親戚同士となる。

 雨宮冬悟失踪の経緯が渋谷警察署の署員から説明された。
雨宮冬悟には妻、理英と高校三年生の娘、中学一年生の息子がいる。妻子と別居中の雨宮は、渋谷区の高級賃貸マンションを借りてひとりで生活していた。

 10月22日、月曜日。
雨宮理英はアスターカンパニーの専務から、雨宮が22日の午後になっても出社していないと連絡を受けた。雨宮のスマートフォンは電源が入っておらず繋がらない。
彼女は22日の夜に夫が借りている渋谷区広尾のマンションを訪れたが、留守だった。

雨宮にはふらっと海外に出掛ける癖があるが、パスポートやキャリーケースなどの旅行用品は自宅にあり、作りおきのサーモンマリネが冷蔵庫に入っていた。

 23日になっても雨宮は出社しなかった。理英にも会社の幹部にも雨宮からの連絡はない。
理英は10月24日に渋谷警察署に捜索願いを提出。
渋谷署の捜査により、雨宮と音信不通になる前日、10月21日の彼の行動が明らかとなる。

 雨宮は21日の20時半頃まで取引先の社長と神楽坂で食事をしていた。取引先の社長は雨宮とは同じタクシーを使って帰宅したが、先に下車したので雨宮がどこで降りたかはわからないと語った。

渋谷署は、今度は雨宮が利用したタクシー会社の運転手に事情を訊ねる。運転手は千代田区の岩本町付近で雨宮を降ろしたと証言した。下車時刻は21時半過ぎ。
そこから雨宮冬悟の姿を目撃した者はいない。

 27日には雨宮が銀行の貸金庫を借りていたことが発覚。妻、理英の立ち会いの下で貸金庫を解錠。
金庫に入っていたのはUSBメモリだった。

理英の承諾を得て渋谷署はUSBの中身を閲覧。記録されていたデータは、雨宮と十代と思われる少女の性交を映した動画だった。

 動画の少女に心当たりはないと言うが、理英は錯乱状態に。
夫と少女の不貞行為の動画を見せられて錯乱するのは当然としても、理英の怯えた様子は異常だったと渋谷警察署の刑事は主観を口にした。

雨宮が未成年の少女とわいせつな行為をしていたのなら、児童買春罪や淫行《いんこう》罪となる。犯罪の証拠である動画を貸金庫に預けていた雨宮の意図は不可解ではあるものの、警察が少女の身元の追及に乗り出した矢先。

 10月28日に理英から捜査願いの取り下げが代理人を通して伝えられた。捜索願が取り下げられた以上、警察としては雨宮の捜索はできない。

しかし雨宮の犯罪行為は見過ごせない。このまま雨宮失踪の案件から手を引くことはできないと判断した渋谷警察署の署長は、11月初旬に友人の上野恭一郎にこの件を相談した。
< 10 / 185 >

この作品をシェア

pagetop