パーフェクト・フィグ


エレベーターを降りて、
廊下に差し掛かったところで
足早に歩いてくる音が聞こえた。


「…」


案の定、すみれだった。

以前と変わらず、まだ夏終わりだというのに
大袈裟なほどに厚着だ。

白のブルゾンは首までしっかり閉めている。


「君、麻酔科の…」


すみれは足を止めて言った。
それから雅俊の手元に目を向けた。

雅俊は気にせず言った。


「急患か」

「そう。今から開く」


"開く"とは、開胸すること、
すなわち手術することを意味している。

すみれは雅俊の持つ袋から目を離さなかったが、
やがてぐぅーと間抜けな音が
2人の間に響いた。


「…食ってないのか」


すみれは自分の腹部に手を当てた。


「カップラーメン待ってたら呼ばれた」


伸びちゃうかな、と呟くすみれに
雅俊は思わず反応してしまった。


「そんなのばっか食ってたら
 持たないだろ」

「だって、作ってもどうせ無駄になるから」


小児心臓は急変が多い。

故に突然外科医が呼ばれることは
他の科よりも多いだろう。

ましてや医局員が少ないなら尚更だ。


「…終わったらうちに寄れ。
 カレーぐらいなら分けてやる」


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