外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する


(……やばい、寝不足だ)

 コンサート当日、わたし達は会場で待ち合わせをする。開演1時間前でも辺りは賑わっていて熱気漂う。
 新作アルバムを引き下げて回る全国ツアーの千秋楽、ファンに力が入るのも無理はない。推しからサービスを貰えそうな目立つ装いが次々ドームへ吸い込まれていく。

(凄い人混み。洋服を選んでくれて良かった。似合うかどうかは置いておいて、目印にはなるもんね)

 キョロキョロ見渡す。周囲と頭2つ以上抜きに出た背丈がこちらへ向かっているのを見付け、手を振ろうとしたらーー

「わぁ! 見てあの人、かっこよくない?」

「本当! 芸能人かな?」

 誰に対しての言葉なのは明らか。花岡君は至ってシンプルな服装でやって来たが、アイドルを見慣れた集団の視線をも奪う。

「先輩、お疲れ様です!」

 いつもは上げている前髪をおろした表情はパァッと明るくなり、駆け寄ってくる。

「お、お疲れ様」

「迷わなくて良かったです。待たせてしまいましたか?」

「ううん、大丈夫」

 仕事で接する時の調子で挨拶され、お手本通りの笑顔。これがプライベートの時間と意識し過ぎて寝不足になった自分は上手く微笑み返せない。

「……今日は誘ってくれてありがとう」

「こちらこそ。お付き合い頂き、ありがとうございますーー先輩、もしかして睡眠不足です?」

「え?」

「少し疲れているご様子なので」
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