外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 どう凄かったのか説明しようとすると、再び袖口で遮られる。

「素人の称賛とかも聞きたくない。勝手に感動したらいいよ。でも僕はアイドルという仕事に誇りなんて微塵も持っていないから」

「え?」

「はぁ、迷惑なんだって」

 先程まで触れていた部分から現実の温度に冷めていく。

「だから僕は君の理想の王子様じゃないの!」

 告げられた瞬間、廊下の照明が付いた。眩しさで細めた視界がうっすら滲む。

「兄貴? 深山先輩?」

 花岡君がこちらへ歩いてくる。わたしを認識できる距離になると歩幅を広げ、そのまま亮太へ詰め寄った。

「おい、先輩に何をした?」

「水を飲ませようとしただけ」

「嘘をつくな! 先輩が泣きそうな顔をしている理由は? 何かしたんだろ?」

「してない。本人に確かめれば?」

 亮太は真面目に取り合うつもりがないらしく、肩を竦める。それからわたしへ会話を振ってきた。

「僕は本当の事しか言ってないんだけど、傷付けたならごめんね?」

 両手を合わせたポーズに正真正銘のアイドルスマイルを足す。
 この人はCrockettの亮太だけどもわたしが知っている亮太じゃない、そして夢でないと理解する。

 改めて目尻を拭い、現状の把握へ意識を傾けた。
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