外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「花岡君、わたしね、居酒屋を出てからの記憶がなくて……」

「え、あぁ! 兄貴はもういいから部屋へ戻りなよ」

 亮太との関係より、事の経緯を知りたがると花岡君は意外そうな顔付きになる。

「あちらへどうぞ。水は俺が持ってきます」

 亮太には場を離れるよう言い、わたしを正面の部屋へ招く。

「真琴ちゃん」

 入室する手前で呼び止められた。次はどんなカミングアウトされるのか、びくつく。アイドルという仕事に誇りを持てない旨を聞かされた衝撃で体内のアルコールが吹き飛ぶ。

「一樹だって同じだよ。あまり信用しない方がいい」

 振り向かず、そんな忠告めいた提言を背中で聞き流す。頑なな態度を鼻で笑われる気配がした。




「常温と冷やしてあるの、どちらにします?」

 テーブルにペットボトルとグラスが並べられる。

「じゃあ常温を」

「はい」

 選ぶと彼が注いでくれた。

「……凄い家に住んでるのね」

 応接室まである間取りは一般的じゃない。あれこれ詮索するつもりはないものの、ここまでだと言及しない方が不自然。

 革張りのソファーを軋ませ、彼は座り直す。

「父名義の部屋ですよ。ご覧になった通り、兄弟で生活しています。兄が失礼な真似をし、すいませんでした!」

「ううん! 亮太ーーお兄さんは何も! 勝手に憧れてただけだし……」

「先輩の理想を打ち壊す結果になってしまい、すいません。兄は今夜は帰らない予定だったんですが」

 首を振る。
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