外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「ーー何をしてる?」

 地を這う低い声。

「ちぇっ、帰ってきたんだ?」

 亮太が舌打ちすると、今度はわたしへ尋ねる。

「こんな所で何をされてるんですか?」

 折り重なってはいないものの、この姿勢は危うい。亮太がわたしの上から退く気配はないので下手に動けなかった。

「ガキじゃないんだ、見たら分からない?」

「分からないから聞いてるんだろう!」

「あー大声出すなよ〜真琴ちゃんがびっくりしてる。ねぇ?」

「いや、わたしは、あの」

 親しげに顔を覗き込んで頭を撫でてくる。

「はぁ」

 花岡君は正面へ回り、崩れる落ちるよう着席しつつ深いため息を吐く。
 軽蔑を含む息を吹き掛けられ、ますますわたしの頭の働きが鈍くなる。

「ごめんなさい、勝手に上がり込んで」

「……いえ、ここは俺だけの家じゃないので。あんな別れ方をしたから後を追えませんでしたが、お元気そうで何よりです」

 嫌味を浴び、反論は出来そうもない。

「ひとまず、くっついていないで離れません?」

 花岡君は握り締めていた花束を亮太へ差し出す。

「母さんが好きな花、知ってたの?」

 亮太は素直に受け取り、わたしからも離れる。花束を掲げた姿は何処となく嬉しそう。

「えー、メッセージカードはないの?」

 だが喜びも束の間、物足りないと口を尖らす。

「ない。が、そんなにメッセージが欲しいなら言おうか?」

「聞かせてよ、良い機会じゃないか。お兄ちゃんへの文句が溜まってるんじゃない?」

 お兄ちゃんの響きに一瞬怯むも、花岡君は足を踏ん張るよう広げた。

「俺はもう兄貴のやり方に目を瞑らない。それに先輩の事も見ない振りしない」

 わたしは正座となり、膝の上で拳を作る。

「あのね花岡君、これには事情があって」

 言い訳にしか聞こえないだろうけど説明責任を果たそう。これまでの経緯を話す為、お腹へ力を入れた。
 花岡君も気まずさを残しつつ、わたしの言葉を受け止める姿勢をした。視線を反らさない。

「事情も何もない、僕が真琴ちゃんを襲おうとしたんだよ」

 ところが亮太が誰よりも早く言葉を射る。
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