外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「あ、深山さん、ちょっと聞いて下さいよ! 花岡さんのお客様がウチの商品を探してるって言うので協力したんですが、花岡さんってばお礼をしてくれないんです!」

「お礼?」

 外商部へ商品協力をするのは当然で、お礼など発生しない。彼女とてそんな旨は承知しているだろうに。駆け寄ってくるとワクワクした顔付きで訴える。

「食事に行こうって約束したんですーー個人的に」

 意味深に『個人的に』を強調。しかし、わたしはそのまま花岡君へ受け流す。

「個人的な誘いなら休憩時間に話し合って下さい。宜しいですか?」

 花岡君は、はい、小さな返事をひとつするだけ。

「それじゃ、俺はこれで」

「あっ、待って!」

 わたしが先に呼び止めたので彼女は手持ち無沙汰となり、売り場へ戻っていく。

「歩きながらでいいので少しお話、いいですか?」

 バックヤードの方角を示して聞く。

「まぁ、それなら構いません。俺は話す事、ありませんが」

「行きましょう」

「……はい」

 花岡君が前を歩き、わたしは振り向かない背中に続いた。前までは歩幅調整をしてくれたが今や置いていかんばかりだ。

「外商の仕事、慣れましたか?」

「……いえ」

「仕事、楽しいですか?」

「……まぁ」

「忙しいみたいですが体調は大丈夫ですか?」

 質問する側が息切れしてしまう。それに本当はこんな事を聞きたいんじゃない。

 と、花岡君の足が止まった。

「深山さんこそ」

「え?」

「体調大丈夫ですか?」

「……あ、あぁ」

 思わず胃の付近を押さえる。

「俺に心配されるのは嫌だろうから言いませんでしたが、最近ずっと顔色良くないですよ」

 俺に心配されるのは嫌だろう、この前置きがわたし達の心の距離を表す。

 教育係としてやっていけないと零した翌日には外商部へ移動し、まるで当て付けみたいだった。
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