外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
(いや違う、当て付けもなにも外商部への移動は昇進扱いだ)

 ギクシャクするのは残念だが、あんな事があって元の関係値に戻れない。まして無かった事にも出来ないだろう。

「何度謝ろうと発言は取り消せないと分かってます。本当なら大郷百貨店以外で働くのがいいのでしょう。だけど俺は外商部(ここ)で結果を出すと決めたから。
 目障りだと思いますが、なるべく深山さんの視界に入らないようにします」

「ーーつまり、わたしからも話しかけるなって意味?」

「俺も深山さんとは『先輩後輩』の関係じゃいられないんです」

 やや間があり、花岡君はお手本通りの笑みを作った。
 それから彼のビジネスシューズはわたしと別のルートを歩む。



「やっほ!」

 百貨店を舞台にしたドラマ撮影は順調に行われ、主役の亮太が帰宅するわたしへ手を振る。
 先日のトラブルを気に病む様子が清々しいほどーーない。

「やっほー、やっほーってば!」

「職場で話し掛けないで下さい」

「つれないなぁ。ここでしか顔を合わせないのに?」

「話しているところを人に見られたら困りますので」

 亮太もその辺りは配慮して声を掛けていると思うが、なにせ彼はマイペース。花岡君と兄弟であると知れても構わなそう。

(花岡君が外商部員になってすぐ関係性が明るみに出たら、実力で抜擢されたのにあらぬ誤解を生む。それだけは避けないと)

「それより真琴ちゃんにサイズ調整して貰ったらピッタリ!」

 わたしの懸念を他所に、ビジネスシューズのフィット感を表現したダンスを披露した。

「あと靴ベラも!」

 じゃじゃーん、セルフ効果音付きで持ち運びの出来るサイズの靴ベラを翳す。
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