外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「花岡君が知れば喜びます」

「真琴ちゃんは名探偵だね。君だって一樹に言われたことが許せないくせ、僕にだけ仲直りしろって言うのはズルくない?
 大体、一樹とは性格が合わないんだ、似てないの。仲良くなんて出来るはずない」

 亮太はもっともな言い分を告げ、アイドルスマイル。

「花岡君と亮太さんのそうした営業スマイルを作る所とか、そっくりですよ。明日、ストール持ってきますので宜しくお願いします」

 一礼して場を離れる。

「バイバイ! 気をつけてね」

 オーバーサイズの袖口で挨拶を返す亮太さんが浮かび、瞬きしたら弾けて花岡君の顔になった。



 アパートに帰り、さっそくストールを紙袋へ詰める。
 Crockettのコンサートへ行って以降、環境が目まぐるしく変わった。体感時間は1年以上なのに実際はたった1ヶ月と少し。

 来月分のカレンダーを捲ると30歳になる日に印がついている。昇進の予定もなければ恋人が出来る気配もない、なんとも寂しい誕生日となりそうだ。

「栄養ドリンクでも飲んでおくか」

 就寝前にノンカフェインタイプの栄養剤を流し込む。ごくごく喉を鳴らす音が妙に耳につく。

『俺も深山さんとは『先輩後輩』の関係じゃいられないんです』

 天井を仰ぎ、花岡君に言われた一節を反芻する。

 亮太には平常心で言い返したり出来るのに、花岡君へは同じよう振る舞えない。決別宣言と受け取れる発言がこんなにも堪えて胸が痛む。

『真琴ちゃんは名探偵だね。君だって一樹に言われたことが許せないくせーー』

 これは亮太の推測。わたしは許していない訳じゃないんだ。元の関係に戻れない、無かった事には出来ないだけで。

(それを許してないって言われちゃうんだろうけど。わたしとしては改めて謝罪してくれれば……)
 
 ベッドへ上がり、うつ伏せで寝転ぶ。

(ううん、違う。わたし、花岡君に迫られて怖かったんだよ)
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