外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 花岡君のアプローチに少しでも揺らぐのを認められず、社会的立場を持ち出し自尊心を傷付けられたという建前にした。

 毎夜、あのバーでの選択を夢に見る。最初こそ提案を突っぱねていたものの、段々と花岡君の手を取ればどんな未来があったのか巡らせ、せめて彼の真意を尋ねるべきであったと後悔してしまう。

 場当たり的に行動を起こし、一時の感情に流されやすい性格はいつも取り零す。

 冷静になれば彼がわたしの尊厳を踏みにじる人間でないことなど分かりきっている。
 だけど亮太との間柄を疑われ、ムカッとした。

(花岡君に言われたから頭に血が上った)

 臆病な本心が着込んだ言い訳を1枚、1枚、自らの手で剥がしていく。

(彼の前では先輩風を吹かせていたかった)

(頼れる先輩で居たかった)

(憧れる対象であり続けたかった)

 鼻の奥が痛くなり身体を起こす。
 サイドテーブルに置いたテイッシュへ手を伸ばした際、携帯電話が震えているのに気付く。

「ーーもしもし?」

「あ、ごめん。もしかして寝てた?」

 鼻声であるのを見抜く着信相手はーー同期だった。

「ううん、大丈夫。ちょっとウトウトしていただけ」

 目尻を拭い、口角を引き上げる。

「え、まだ10時よ? やっぱり疲れてるの?」

「もう10時よ。あなたこそ妊婦なんだし、早く寝たら? って、やっぱり疲れが顔に出てるかな?」

「……うん、それと真琴の噂を聞いちゃって」

 声のトーンが一気に沈み、伝えようとする内容を察した。外商部に所属する彼女は佐竹さんと接点がある。

「心配して連絡くれたの? あなただって自分の身体が大変なのに」

「当たり前じゃない! 真琴、佐竹さんに弱みを握られてるんでしょ?」

「弱みというか」

「花岡君が移動してきたのだって真琴を守る為なんだよね?」

「ーーは? どういう事?」
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