落ちこぼれ悪魔の扱い方
千鶴の目が、次第に焦点を失い始める。
もう目も見えなくなってきているのだ。
「ごめんなさい。きっと、私の存在は……あなたにとって、一つの、傷になる……」
千鶴は必死に口を動かすが、声にならない部分が増えてきた。
死が、千鶴をこの世界から引き剥がそうとしている。
千鶴は間もなくこの世界からさらわれ、与崎とは別の場所へ行くのだろう。
罪のない潔白な彼女は、悪魔になんてなるはずがない。
千鶴のガラス玉のような瞳が、じんわりと涙で揺らいだ。
「忘れてください。それから、それから……。
幸せになって、ください」
掠れた声でそう言い残すと、千鶴は満足げな表情で目を閉じた。
与崎に触れている左手が離れ、ぱたりと音を立てて床に落ちる。
こうして千鶴は殺された。
おそらく、彼女の旦那に。
与崎はしばらく呆然としたまま、温度の消えた千鶴の右手を握り続けていた。
空白になった与崎の胸の奥に、黒い澱のようなものが積もる。
形容しがたい不快な感覚。
やがてそれは、『自責の念』というはっきりとした形になって胸の中を渦巻き始めた。