そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
 順調な同棲生活は一年を経て、今年の六月には結婚式が控えている。
 陣との生活は本当に穏やかで、今まで否定されたり嫌な顔をされてきたことも、彼は快く受け入れ、後押ししてくれる。
 顔色をうかがう必要もないし、怒声に怯えることもない。
 だから、七瀬も毎日笑顔でいられるし、彼にやさしくありたいと思う。
 こんな心穏やかな生活があったことに、毎日感動しているほどだ。

 そこで、ずっと目標だった二度目のインド渡航を結婚前に実現させたいと言い出したのだが――。

「ずっと行きたいって目標立ててたもんな。もちろん行っておいでよ。でも、結婚したら行けないとか、そんなふうには考えないでね。俺との結婚を、枷と思ってほしくないから」

 家柄が家柄なので、そちらのしがらみも多いことを心配しているのだろう。
 でも陣なら、七瀬に背負いきれない分はきっと助けてくれる。今まで、一人で放り出されて困った状況に置き去りにされたことは一度もないから。

「うん、そんな心配はしてないよ。でも、今まで自由にさせてもらった分、結婚したらちゃんと三門社長の妻としても役に立ちたいし。三門社長の妻は放蕩なんで言われたらいやだもん」

 陣は現在、グループ専務取締役から、子会社である帝鳳不動産の社長に就任しているのだ。

「そんなの、気にしなくていいのに」

「気にしてるわけじゃなくて、ただ、私がそうしたいと思ってるだけ。陣はいつも私に見返りなしでやさしさをくれるから、私も同じように陣に尽くしたいと思ってるだけだよ」

 そう言って、陣のくれた指輪が光る左手で彼の手を握りしめた。

「私ね、あなたに出会えて、本当によかった――」

「俺こそ、こんなに愛おしいと思える君に出会えて、本当に幸せだ。でもこの幸せの結果は、手放すことにならない?」

 そんな陣の問いかけに、七瀬は噴き出した。

「『幸せな結婚』を目指す過程と行為を大事にするんです。結婚してハッピーエンドじゃないですから。そこからも人生は続いていくから。あなたとなら、その過程もきっと楽しく過ごしていけると思うから――」

 陣の肩に手を置き、七瀬からくちづける。
 それに応えて彼の手が七瀬の腰を抱き寄せ、甘く重なるキスをくれる。

 人生の時間をこの人と共有できる喜びをキスに込めて、七瀬は目を閉じた。
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