そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
――こうなった事の発端は先週の木曜日、あのカフェバー事件があった日の昼のこと。
その日は寝坊したとかで、七瀬がお弁当を作れなかったため、仕方なくコンビニ弁当を食べていたところ、いつも自席でお弁当を食べている沙梨が「今日は彼女さんのお弁当じゃないですか?」と尋ねてきたのだ。
「仕事で、弁当を作る余裕がなかったみたいで」
「彼女さん、朝早いんでしたよね。もしよかったら、私も毎朝作ってますから、朝倉マネージャーの分も一緒に作ってきましょうか?」
沙梨とは研修時から常に一緒にいるので、プライベートの話題もふつうに交わす仲だ。もちろん宗吾にヨガ講師をしている恋人がいて、同棲していることも知っている。
「いや、さすがにそれは――」
お弁当の提案は、立場的にも遠慮したのだ。でも、沙梨は笑顔を向けてくる。
「じゃあ、仕事だと割り切りましょうよ。毎日、お弁当を作るから、材料費だけください。それなら彼女さんも負担が減って助かるでしょう? 一食三百円でいいですよ」
「本気で……?」
「お弁当を一つ作るのも二つ作るのも、そんなに変わらないですよ! 後で、そこにある雑貨屋さんでお弁当箱を買っていきません?」
そういったやり取りがあって、退勤時に近所の雑貨店にふたりで寄り、宗吾が選んだ弁当箱を彼女に託したのである。
あのカフェバーに七瀬を呼び出したのは、その帰り道だった。
別に後ろめたかったわけではなく、七瀬を労い、今後は弁当不要であることを伝えようと思っただけなのだ。
しかし、沙梨のすらっとしたパンツスーツにフレアヒール、カシミヤのロングコートといったデキる女の通勤スタイルを見た直後に、七瀬のだぼっとしたエスクック風の服装や、大きなリュック、ヨガマットを担ぐ姿を見比べてもやもやした。
その後も、七瀬の無反省な態度にずっと憤慨していたのだが、沙梨が七瀬を気遣って提案をしてくれたこと、店を出た帰り道に沙梨から『明日のお弁当の材料』と言って、SNSに画像が送られてきたことで、沙梨の顔を立てるために溜飲を下げたのだ。
その沙梨の厚意に乗っかって、七瀬はさっそく翌朝から冷めたおにぎりだけを置いて出かけてしまった。
自分のやりたいことだけをやる七瀬の姿勢は、自分に相応しくないのではないだろうか。ふと、そんな思いが頭をよぎる。
そもそも七瀬はちゃんとした会社に勤めたこともなく、いつまで続けられるかわからない個人事業主という不安定な働き方をしている。
もしかしたら、将来的に宗吾の稼ぎを当てにしているのだろうか。
むろん、結婚したら妻を養うのは当然だと思っているが、あんなフラフラした仕事にほとんどのリソースを割き、家事をおろそかにする妻は、果たして養う価値があるのだろうか。
その日は寝坊したとかで、七瀬がお弁当を作れなかったため、仕方なくコンビニ弁当を食べていたところ、いつも自席でお弁当を食べている沙梨が「今日は彼女さんのお弁当じゃないですか?」と尋ねてきたのだ。
「仕事で、弁当を作る余裕がなかったみたいで」
「彼女さん、朝早いんでしたよね。もしよかったら、私も毎朝作ってますから、朝倉マネージャーの分も一緒に作ってきましょうか?」
沙梨とは研修時から常に一緒にいるので、プライベートの話題もふつうに交わす仲だ。もちろん宗吾にヨガ講師をしている恋人がいて、同棲していることも知っている。
「いや、さすがにそれは――」
お弁当の提案は、立場的にも遠慮したのだ。でも、沙梨は笑顔を向けてくる。
「じゃあ、仕事だと割り切りましょうよ。毎日、お弁当を作るから、材料費だけください。それなら彼女さんも負担が減って助かるでしょう? 一食三百円でいいですよ」
「本気で……?」
「お弁当を一つ作るのも二つ作るのも、そんなに変わらないですよ! 後で、そこにある雑貨屋さんでお弁当箱を買っていきません?」
そういったやり取りがあって、退勤時に近所の雑貨店にふたりで寄り、宗吾が選んだ弁当箱を彼女に託したのである。
あのカフェバーに七瀬を呼び出したのは、その帰り道だった。
別に後ろめたかったわけではなく、七瀬を労い、今後は弁当不要であることを伝えようと思っただけなのだ。
しかし、沙梨のすらっとしたパンツスーツにフレアヒール、カシミヤのロングコートといったデキる女の通勤スタイルを見た直後に、七瀬のだぼっとしたエスクック風の服装や、大きなリュック、ヨガマットを担ぐ姿を見比べてもやもやした。
その後も、七瀬の無反省な態度にずっと憤慨していたのだが、沙梨が七瀬を気遣って提案をしてくれたこと、店を出た帰り道に沙梨から『明日のお弁当の材料』と言って、SNSに画像が送られてきたことで、沙梨の顔を立てるために溜飲を下げたのだ。
その沙梨の厚意に乗っかって、七瀬はさっそく翌朝から冷めたおにぎりだけを置いて出かけてしまった。
自分のやりたいことだけをやる七瀬の姿勢は、自分に相応しくないのではないだろうか。ふと、そんな思いが頭をよぎる。
そもそも七瀬はちゃんとした会社に勤めたこともなく、いつまで続けられるかわからない個人事業主という不安定な働き方をしている。
もしかしたら、将来的に宗吾の稼ぎを当てにしているのだろうか。
むろん、結婚したら妻を養うのは当然だと思っているが、あんなフラフラした仕事にほとんどのリソースを割き、家事をおろそかにする妻は、果たして養う価値があるのだろうか。