そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
 ――そんなことを考えながら、お弁当を差し出してくれた沙梨を見た。
 仕事の苦労を分かってくれる上で、こうして宗吾をフォローしてくれる彼女がひどくいじらしく、まぶしく見えた。

 フロア内の休憩所に移動し、沙梨にペットボトルのドリンクをおごるとソファ席に差し向かいで座り、一緒に弁当を食べる。
 その間の会話も、ずっと仕事のことだ。

 宗吾の携わるプロジェクトは、親会社の大手ゼネコン、ミライリアルエステート建設の手がける不動産物件における、スマートシティプロジェクトの企画・実行だ。
 もちろん、七瀬に説明したところで一ミリも理解されない。

「十三時半に出発できるように、プレゼン資料は準備しておきました。今日はミライリアルエステートの営業担当も同席するそうなので――」

 食事をしながらも、午後からの仕事の確認に余念がない。

「その段取りで問題ない。さすが大楠さんはよく気が利くね。どこかの誰かと大違いだ」

 思わずぼやいたら、沙梨はくすっとかわいらしく笑った。

「彼女さんもお仕事で大変なんですよ。でも、業種が違う仕事だと、生活を合わせるだけで一苦労ですね。お休みもあまりかぶらないんでしたっけ?」
「週末は、たいてい一人で置いてけぼり」

 肩をすくめて苦笑したら、お弁当箱の蓋を閉めた沙理が身を乗り出してきた。

「週末も彼女さん、お仕事なんですか?」
「土日の方が生徒が多いらしいからね。日曜は休みにさせてるけど、土曜は一日いないよ」

 すると、沙梨がテーブルに身を乗り出してきた。

「でしたら朝倉さん、お願いがあります! 再来週、兄の誕生日なんですが、何をあげればいいか迷ってるんです。よければ来週の土曜日、一緒に買い物に行ってくれませんか? 彼女さんがお仕事でいないのなら」
「俺と?」
「兄と朝倉さん、同い年なんです。兄も会社勤めだし、もらってうれしい物のアドバイスが欲しいです。お昼ごちそうしますから! お忙しいですか……?」

 一瞬迷ったものの、どうせ七瀬は仕事で十九時くらいまで帰ってこないから、昼間はいくらでも時間がある。一人手持無沙汰で過ごすよりは有意義だろう。

「わかった、いいよ」
「ほんとですか!? やったぁ! お仕事、張り切ります!」

 こうして来週末の約束を取り付け、その日は新宿のクライアントの事務所へ出かけた。
< 16 / 102 >

この作品をシェア

pagetop